第7回:レトリックにおける5つのキャノン。【面接で満点合格を目指すためのレトリック理論講座】(20回連載シリーズ)
【面接で満点合格を目指すためのレトリック理論講座】(20回連載シリーズ)
第7回:レトリックにおける5つのキャノン
<今回の内容がわかっていないから、面接が苦手になるのです。
今回のレトリック理論が理解できていないから、面接で不合格になるのです。
面接で合格したいのであれば、今回の第7回は、絶対に読んでください!>
★手が止まる場所
面接の準備を始めた日のことを、思い出してみてください。
机に向かって、紙かパソコンを開く。まずは志望動機から書こうと考える。
「私は、子ども一人ひとりと向き合える教師になりたいと考えています」
一行書きました。その次が、出てきません。
しばらく考えて、二行目を足します。読み返すと、どこかで読んだような文が並んでいます。自分の言葉という感じがしません。
それでも書き進めようとして、十分ほど経ちます。手は、ほとんど動いていません。
この経験は、ほぼすべての受験者が通ります。そして、多くの方がこう考えます。
自分には、語ることがないのかもしれない。
文章が苦手なのかもしれない。
どちらも違います。
手が止まった原因は、能力の問題ではありません。作業の順序の問題です。
今回は、二千年前に整理された五つの工程を扱います。
この順序を知ると、手が止まる場所と、その理由が分かります。

★キャノンとは、五つの仕事のことです
キャノンとは、規準を意味する言葉です。
レトリックの世界では、語りを作る人が果たすべき五つの仕事を指します。
まず、流れを一息で見てください。
何を語るかを見つける。
見つけたものを、どう並べるかを決める。
並べたものを、言葉にする。
言葉を、自分の中に入れる。
そして、人の前で発する。
これが、五つです。
順に、名前がついています。
1.発想。何を語るかを見つける工程。
2.構成。見つけた材料の順序を決める工程。
3.修辞。順序の決まった材料を、言葉にする工程。
4.記憶。言葉にしたものを、自分の中に入れる工程。
5.演出。自分の中に入れたものを、人の前で発する工程。
ここで、出典にも触れておきます。
第2回から第5回で扱ったエトス、パトス、ロゴスの三つは、アリストテレスの整理でした。
人がなぜ納得するのかという、原理の分析です。
五つのキャノンは、その後のローマ期に体系化されました。
語りをどう作るかという、制作の手順です。
原理が先にあり、手順が後から整いました。
そして五つのキャノンは、西洋で長く教育の中核に置かれてきました。
★あなたは、この順序をすでに知っています
五つを並べられても、まだ自分の作業とは結びつかないかもしれません。
ところが、この順序は、あなたがすでに使っているものです。
授業を作るときのことを、考えてみてください。
まず、教材研究をします。
教科書を読み、指導書を開き、何を教えるかを決めます。
どこが山場か。
子どもがどこでつまずくか。
どんな資料を用意するか。
次に、指導案を書きます。
導入をどう入るか。
展開で何をさせるか。
まとめで何を確認するか。
順序を決める作業です。
それから、言葉を決めます。
中心発問をどう言うか。
板書に何をどう書くか。
流れを頭に入れて、教室へ向かいます。
そして、子どもたちの前で授業をします。
教材研究、
指導案、
言葉(指導言)、
頭に入れる、
実際の授業。
五つのキャノンと、そのまま重なります。
発想、構成、修辞、記憶、演出です。
ここで、考えてみてください。
発問の言葉から授業を作り始める人は、いません。
教材研究をせずに板書案を書く教師も、いません。
逆の場合を想像すると、分かりやすくなります。
教材研究をせずに、板書だけを美しく作った授業。
板書は整っています。
発問の言葉も用意してあります。
ところが、子どもが予想外のことを言った瞬間に、先へ進めなくなります。
教材のどこが山場かを自分で掴んでいないため、戻る場所がありません。
この授業は、どこかで見たことがあるはずです。
そして、同じことが面接で起きています。
★前の工程が、次の工程に渡します
五つのキャノンは、種類を分けたものではありません。
一本の流れです。
発想が出すのは、視点・切り口・材料です。
その視点・切り口・材料材料を受け取って、構成が順序を決めます。
順序を受け取って、修辞が言葉にします。
言葉を受け取って、記憶が身につけます。
身についたものを受け取って、演出が人の前に届けます。
一つの材料で、この流れを追ってみます。
教育実習の最終日に、ほとんど発言しなかった生徒が手紙をくれた。
この出来事が、あなたの中にあるとします。
発想の工程で、この出来事が拾い上げられます。
自分の中にある数十の出来事を並べて、その中から使えるものを選び出す作業です。
この段階では、まだ言葉になっていません。
あの日の記憶として、そこにあるだけです。
構成の工程で、置き場所が決まります。
志望動機で使うのか。
自己アピールで使うのか。
子どもたちに伝えたいことで使うのか。
どこに置くかで、同じ出来事が別の働きをします。
答えのどの位置に入れるかも、ここで決まります。
修辞の工程で、言葉になります。
手紙に何が書かれていたかを、どこまで言うか。
自分の気持ちを、どの一行で置くか。
結論まで言うか、手前で止めるか。
記憶の工程で、この語りが身につきます。
言葉の順番を覚える作業ではありません。
あの日の教室を思い出せば言葉が出てくる状態にしておく作業です。
そして演出の工程で、面接官の前に届きます。
どの表情で、どの速さで、どこで間を置くか。
一つの出来事が、五つの工程を通って、評価になります。
ですから、途中を飛ばすと、次の工程に渡すものがありません。
材料がないまま、順序は決まりません。
順序が決まらないまま、言葉にもできません。
ただし、一方通行だからといって、戻れないという話ではありません。
言葉にしてみて、材料が足りないと気づくことがあります。
そのときは、発想まで戻ります。
戻ることは、やり直しではありません。
どこへ戻ればよいかが分かる状態が、工程を持っていることの利点です。
★多くの受験者は、三番目から始めています
冒頭の場面に戻ります。
机に向かって、志望動機の文を書き始める。
この作業は、どの工程でしょうか。
言葉を作る作業ですから、三番目の修辞です。
一番目の発想と、二番目の構成が、飛んでいます。
言葉にする工程を、言葉にする中身がない状態で始めている。だから、一行で止まります。
授業づくりなら、絶対にしない順序です。
教材研究をせずに板書案から書き始める教師はいません。それを、面接の準備ではしています。
しかも、本人には飛ばしている自覚がありません。文を書き始めた時点で、準備を始めたつもりになっています。
★そこから、受験作文が生まれます
止まった先で、何が起きるでしょうか。
手が止まった受験者は、外に答えを探しに行きます。
書店の棚で面接対策本を手に取る。
似た質問の模範解答を見つける。
自分の紙に写す。
語尾だけを、自分の言葉に変えて。
あるいは、生成AIに質問して、返ってきた文を少し直して使う。
ここで、受験作文モードが生まれます。
前回、受験作文モードが面接官に見抜かれる仕組みを扱いました。
作ってきたと分かった瞬間に、語り手への信頼が失われるという話です。
その原因は、実は工程の飛ばしにありました。
自分の材料を持っていないため、外から借りることになります。
そして、借りた言葉には、借りた文体がついてきます。
ですから、モーダルチョイスの問題は、様式の選択だけでは解けません。
発想の工程に戻って、自分の材料を持つところから始める必要があります。
★五つは、診断にも使えます
もう一つの使い方があります。
語りがうまくいかないとき、どこでつまずいたのかを特定できます。
材料が出てこないなら、発想です。
話が追えないと言われるなら、構成です。
言葉が借り物に聞こえるなら、修辞。
本番で飛んでしまうなら、記憶。
内容は整っているのに届かないなら、演出です。
多くの受験者は、うまくいかない原因を練習不足だと考えます。
そして、同じ練習の量を増やします。
しかし、原因は五つのどこかにあります。
場所が特定できなければ、量を増やしても結果は変わりません。
ただし、見分けにくい場合もあります。
たとえば、話が長いと言われたとき。
順序が決まっていないため、言いながら探している。
これなら、構成の問題です。
一文に二つの内容を入れているため、長くなっている。
これなら、修辞の問題です。
材料が足りないため、同じことを言い換えて埋めている。
これは、発想の問題です。
同じ症状でも、原因は三か所に分かれます。
見分けるには、自分の語りを録音して聞くのが最も確実です。
★エトス、パトス、ロゴスと組み合わせます
ここで、第2回から第5回の内容を重ねます。
三つの様式を、もう一度挙げておきます。
エトスは、語り手への信頼です。この人の言うことなら信じられる、という感触。
パトスは、聞き手の感情が動くことです。
ロゴスは、話の筋道です。聞き手が最後まで追いかけられるかどうか。
そして、この三つには強さの順序がありました。エトス、パトス、ロゴスの順です。
五つの工程を縦に並べ、この三つを横に置いてください。
表ができます。
工程が進むたびに、同じ三つを確認していきます。
先ほどの手紙の材料で、やってみます。
発想の段階で、問いかけます。
この材料は、エトスを作るか。
発言の少ない生徒に目を向けていた人として映りますから、作ります。
パトスを動かすか。手紙という具体物があるため、映像が立ち上がります。
動きます。
ロゴスを支えるか。
寄り添った結果として筋が通ります。
支えます。
三つとも満たす材料です。
主力として使えます。
構成の段階でも、同じ三つを確認します。
この材料を志望動機の最後に置くか、途中に置くか。
置き場所によって、三つのどれが強く働くかが変わります。
修辞の段階でも、確認します。
結論まで言い切ると、ロゴスは明確になります。
しかし、第5回で扱ったエンテュメーマが使えません。
結論を言わずに手前で止めると、面接官が自分で結論を置きます。そのほうが強く残ります。
五つの工程は、作業の順序です。
三つの様式は、作業の目的です。
順序と目的が交差したところに、設計が生まれます。
三つの様式を先に扱った理由が、ここにあります。
目的が決まっていなければ、各工程で何を選ぶかを判断できません。
★時間配分を組み替えます
最後に、今日からの作業です。
いまの配分を、思い出してみてください。
多くの受験者は、準備時間のほとんどを修辞に使っています。
言い回しを直し、言葉を入れ替え、もっと良い表現を探す。
模範解答と見比べて、足りない要素を足す。
発想にかけている時間は、ごくわずかです。
あるいは、ゼロです。
ここを、逆にしてください。
目安を挙げておきます。
発想に、準備時間の半分。
構成に、四分の一。
修辞に、残りの四分の一。
記憶と演出は、この三つが終わってから、別に時間を取ります。
材料が十分にあって、順序も決まっていれば、言葉は早く決まります。
一時間かけて一行も進まなかった作業が、三十分で終わることもあります。
最も時間を食うのは、材料がないまま言葉を探す作業です。
そして、最も成果が出にくい作業でもあります。
いまの配分と比べてみてください。
おそらく、ほぼ逆になっているはずです。
★第7回のまとめ
語りを作る工程は、五つです。
発想、構成、修辞、記憶、演出。
これは、種類の分類ではありません。
一本の流れです。前の工程が出したものを、次の工程が受け取ります。
授業づくりでは、誰もこの順序を飛ばしません。
教材研究をせずに板書案から書く教師は、いません。
ところが面接の準備では、多くの受験者が三番目の修辞から始めています。
そして材料がないまま言葉を探し、対策本や生成AIの文体を借りることになります。
手が止まるのは、能力の問題ではありません。
出発点の問題です。
出発点を、一番目に戻してください。
なお、四番目の記憶は、丸暗記とは別のものとして扱います。
第17回で、くわしく述べます。
次回から、五つの工程を一つずつ見ていきます。最初は、発想です。
自分の中にある材料を、すべて洗い出す工程です。
河野正夫

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