第4回:パトス 面接官の感情をどう動かすか。【面接で満点合格を目指すためのレトリック理論講座】(20回連載シリーズ)
【面接で満点合格を目指すためのレトリック理論講座】(20回連載シリーズ)
第4回:パトス 面接官の感情をどう動かすか
★二番目に強い経路を扱います
前回は、エトスを扱いました。
最も強い経路であり、自分で名乗れないという制約を持つものでした。
今回は、二番目に強いパトスです。
そして、パトスもエトスと同じ形の制約を持っています。
働く場所が、自分の側にありません。
ここから入ります。

★パトスは、自分が感情的になることではありません
パトスと聞いて、多くの方がこう考えます。
熱意を込めて語ればよい。
声に力を入れればよい。
想いを前面に出せばよい。
これは、誤解です。
語り手が熱を上げると、聞き手は引きます。
押されたと感じるからです。
パトスとは、聞き手の中に特定の感情が生じる条件を整えることです。
自分が感じることと、相手の心が動くことは、別の出来事です。
むしろ、この二つは逆方向に働く場合があります。
語り手が涙を見せると、聞き手は冷めます。
語り手が淡々と語ると、聞き手の中で何かが動きます。
★感情には、生じる条件があります
アリストテレスは、感情を一つずつ分析しました。
その感情が、どういう状態であるか。
誰に向かって生じるのか。
どういう理由で生じるのか。
この三点を押さえなければ、その感情は呼び起こせないという立場です。
ここから、重要な帰結が出ます。
感情を動かす作業は、気合の問題ではありません。
条件を特定し、条件を置く作業です。
つまり、設計できます。
気持ちを強く持つことで解決する問題ではありません。
何を、どう置くかという技術の問題です。
★面接で狙う四つの感情
では、面接官の中に、どの感情を生じさせたいのでしょうか。
四つあります。
共感。
私もそう思う、という感情です。
安心。
この人なら任せられる、という感情です。
親愛。
一緒に働きたい、という感情です。
期待。
この人は伸びていくだろう、という感情です。
この四つが、評価票の点数に直結します。
自分の語りが、四つのどれを生んでいるか。
ここを意識すると、準備の見え方が変わります。
★最も見落とされているのは、安心です
四つのうち、共感は最もよく語られます。
一方、安心はほとんど語られてきません。
ここに、大きな空白があります。
面接官の側には、不安という感情が常駐しています。
この人を子どもの前に立たせて、大丈夫だろうか。
保護者とのやり取りを任せて、問題は起きないだろうか。
職員室で、周囲とうまくやれるだろうか。
公費で採用し、子どもを任せる立場である以上、当然の感情です。
ですから、安心を作る作業は、不安を取り除く作業と一体になります。
落ち着いた話し方。
報告や相談に触れる一言。
危ないことを先に確認する姿勢。
うまくいかなかったときに、どう動いたかの説明。
これらはすべて、安心という感情を生じさせる条件です。
共感を狙う受験者は、多くいます。
安心まで設計している受験者は、ほとんどいません。
ここが、差のつく場所です。
★条件を整える方法その一 細部で、目の前に立ち上がらせる
ここから、具体的な方法に入ります。
古典レトリックには、目の前に立ち上がらせるという概念があります。
聞き手の中に、その場面を映像として出現させることです。
抽象的な言葉では、感情は動きません。
「一人ひとりに寄り添いたいと考えています」
この一文で、面接官の心は動きません。
映像が浮かばないからです。
細部を入れると、変わります。
いつのことか。
どんな場所か。
誰がいたか。
何と言ったか。
その表情は、どうだったか。
「十一月の放課後でした。教室に残っていたその子が、机に置いた手の指を見ていました」
この一文には、映像があります。
細部は、装飾ではありません。
感情が生じる条件そのものです。
★方法その二 主語を子どもに移す
自分を主語にすると、聞き手は評価する姿勢に入ります。
私は、こう工夫しました。
私は、こう努力しました。
子どもを主語にすると、聞き手は見る姿勢に入ります。
その子は、三週目に自分から質問に来ました。
あの生徒は、卒業の日に手紙をくれました。
評価する姿勢からは、感情は生まれません。
見る姿勢からは、生まれます。
主語を一つ入れ替えるだけで、聞き手の位置が変わります。
そして、面接官は教育に長く携わってきた方々です。
子どもの姿が立ち上がれば、そこに自分の記憶も重なります。
重なった瞬間に、共感が生まれます。
★方法その三 自分の感情は、一行だけ置く
自分の感情を語ることも、必要です。
ただし、量に注意してください。
一行で足ります。
うれしかった。
申し訳なく思った。
続けてきてよかったと思った。
これだけです。
何行も重ねると、感想文になります。
そして、聞き手の側で感じる余地が消えます。
感情は、聞き手が自分で抱くものです。
語り手が先に抱いてしまうと、聞き手の分がなくなります。
一行置いて、あとは聞き手に渡す。
この配分が機能します。
★方法その四 抑えて語る
ここが、最も反直観的な部分です。
泣かせようとすると、泣きません。
重い内容を、重く語ると、聞き手は身構えます。
作為を感じるからです。
重い内容は、抑えて語ります。
静かな声で。
淡々と。
事実だけを置いて。
抑制された語りのほうが、はるかに深く届きます。
前回の例を思い出してください。
母親が小学校の教師で、がんで亡くなり、交わした約束がある。
この内容を、声を震わせて語る必要はありません。
事実を並べるだけで、十分に届きます。
強い内容には、弱い語り方を合わせる。
この配分が、パトスの技術の中核にあります。
★方法その五 間を置く
感情には、生じるまでの時間が必要です。
言い終えた直後に次の話へ進むと、聞き手の中で感情が形になりません。
大切な一文を言い終えたあと、一拍置いてください。
その一拍の間に、聞き手の中で何かが動きます。
沈黙を恐れないでください。
間は、感情のための場所です。
話し続けることで埋めてしまうと、場所がなくなります。
★パトスの山は、一つか二つに絞ります
配分の話です。
全部の質問でパトスを狙うと、どれも薄まります。
面接全体の中で、最も熱を込める場面を一つか二つ決めておいてください。
志望動機で、一つ。
困難を乗り越えた経験で、一つ。
このくらいが適切です。
他の回答は、落ち着いて短く返します。
抑えた回答が並んでいると、山が山として立ち上がります。
全部を山にすると、平地になります。
どこを山にするかは、事前に決めておいてください。
その場の流れに任せると、中心のない面接になります。
★四つの歯止め
パトスは、最も強力で、最も誤用されやすい経路です。
歯止めを四つ置いておきます。
1.作り話は、使えません。
感動的な話を作っても、追質問で崩れます。
細部を問われたときに、根拠が出てきません。
語っている最中の表情も、言葉と合わなくなります。
パトスは、自分の人生の中にあるものを使う技術です。
2.過剰は、逆効果になります。
熱弁も、涙も、押しつけとして受け取られます。
抑えることが、技術です。
3.自分を憐れませてはいけません。
苦労話を、同情を求める形で語ると、評価は下がります。
採用側は、任せられる人を探しています。
憐れまれる立場に自分を置くと、その判断から外れます。
苦労は、乗り越えた過程として語ってください。
4.子どもを道具にしてはいけません。
これが、最も大切な歯止めです。
子どもの困難を、自分の点数を取るための材料として語る。
この姿勢は、面接官に伝わります。
子どものために語っているのか、自分のために語っているのか。
長く教育に携わってきた方々は、ここを敏感に見分けます。
そして、見分けられた瞬間に、エトスまで崩れます。
★第4回のまとめ
パトスは、自分が感情的になることではありません。
聞き手の中に感情が生じる条件を、整えることです。
狙う感情は、四つです。
共感、安心、親愛、期待。
とりわけ、安心が見落とされています。
条件を整える方法は、五つです。
細部で、目の前に立ち上がらせる。
主語を子どもに移す。
自分の感情は、一行だけ置く。
抑えて語る。
間を置く。
そして、山は一つか二つに絞ります。
次回は、三番目の経路、ロゴスを扱います。
河野正夫

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