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第4回:パトス 面接官の感情をどう動かすか。【面接で満点合格を目指すためのレトリック理論講座】(20回連載シリーズ)

執筆者の写真: 河野正夫
河野正夫
23 時間前
読了時間: 7分

【面接で満点合格を目指すためのレトリック理論講座】(20回連載シリーズ)


第4回:パトス 面接官の感情をどう動かすか



★二番目に強い経路を扱います



前回は、エトスを扱いました。


最も強い経路であり、自分で名乗れないという制約を持つものでした。



今回は、二番目に強いパトスです。


そして、パトスもエトスと同じ形の制約を持っています。


働く場所が、自分の側にありません。


ここから入ります。





★パトスは、自分が感情的になることではありません



パトスと聞いて、多くの方がこう考えます。



熱意を込めて語ればよい。


声に力を入れればよい。


想いを前面に出せばよい。



これは、誤解です。



語り手が熱を上げると、聞き手は引きます。


押されたと感じるからです。



パトスとは、聞き手の中に特定の感情が生じる条件を整えることです。


自分が感じることと、相手の心が動くことは、別の出来事です。


むしろ、この二つは逆方向に働く場合があります。



語り手が涙を見せると、聞き手は冷めます。


語り手が淡々と語ると、聞き手の中で何かが動きます。



★感情には、生じる条件があります



アリストテレスは、感情を一つずつ分析しました。



その感情が、どういう状態であるか。


誰に向かって生じるのか。


どういう理由で生じるのか。



この三点を押さえなければ、その感情は呼び起こせないという立場です。



ここから、重要な帰結が出ます。



感情を動かす作業は、気合の問題ではありません。


条件を特定し、条件を置く作業です。



つまり、設計できます。



気持ちを強く持つことで解決する問題ではありません。


何を、どう置くかという技術の問題です。



★面接で狙う四つの感情



では、面接官の中に、どの感情を生じさせたいのでしょうか。


四つあります。



共感。


私もそう思う、という感情です。



安心。


この人なら任せられる、という感情です。



親愛。


一緒に働きたい、という感情です。



期待。


この人は伸びていくだろう、という感情です。



この四つが、評価票の点数に直結します。



自分の語りが、四つのどれを生んでいるか。


ここを意識すると、準備の見え方が変わります。



★最も見落とされているのは、安心です



四つのうち、共感は最もよく語られます。


一方、安心はほとんど語られてきません。


ここに、大きな空白があります。



面接官の側には、不安という感情が常駐しています。



この人を子どもの前に立たせて、大丈夫だろうか。


保護者とのやり取りを任せて、問題は起きないだろうか。


職員室で、周囲とうまくやれるだろうか。



公費で採用し、子どもを任せる立場である以上、当然の感情です。


ですから、安心を作る作業は、不安を取り除く作業と一体になります。



落ち着いた話し方。


報告や相談に触れる一言。


危ないことを先に確認する姿勢。


うまくいかなかったときに、どう動いたかの説明。



これらはすべて、安心という感情を生じさせる条件です。



共感を狙う受験者は、多くいます。


安心まで設計している受験者は、ほとんどいません。


ここが、差のつく場所です。



★条件を整える方法その一 細部で、目の前に立ち上がらせる



ここから、具体的な方法に入ります。


古典レトリックには、目の前に立ち上がらせるという概念があります。


聞き手の中に、その場面を映像として出現させることです。



抽象的な言葉では、感情は動きません。


「一人ひとりに寄り添いたいと考えています」


この一文で、面接官の心は動きません。


映像が浮かばないからです。


細部を入れると、変わります。



いつのことか。


どんな場所か。


誰がいたか。


何と言ったか。


その表情は、どうだったか。



「十一月の放課後でした。教室に残っていたその子が、机に置いた手の指を見ていました」



この一文には、映像があります。


細部は、装飾ではありません。


感情が生じる条件そのものです。



★方法その二 主語を子どもに移す



自分を主語にすると、聞き手は評価する姿勢に入ります。



私は、こう工夫しました。


私は、こう努力しました。



子どもを主語にすると、聞き手は見る姿勢に入ります。



その子は、三週目に自分から質問に来ました。


あの生徒は、卒業の日に手紙をくれました。



評価する姿勢からは、感情は生まれません。


見る姿勢からは、生まれます。



主語を一つ入れ替えるだけで、聞き手の位置が変わります。


そして、面接官は教育に長く携わってきた方々です。


子どもの姿が立ち上がれば、そこに自分の記憶も重なります。


重なった瞬間に、共感が生まれます。



★方法その三 自分の感情は、一行だけ置く



自分の感情を語ることも、必要です。


ただし、量に注意してください。


一行で足ります。



うれしかった。


申し訳なく思った。


続けてきてよかったと思った。



これだけです。



何行も重ねると、感想文になります。


そして、聞き手の側で感じる余地が消えます。



感情は、聞き手が自分で抱くものです。


語り手が先に抱いてしまうと、聞き手の分がなくなります。


一行置いて、あとは聞き手に渡す。


この配分が機能します。



★方法その四 抑えて語る



ここが、最も反直観的な部分です。


泣かせようとすると、泣きません。


重い内容を、重く語ると、聞き手は身構えます。


作為を感じるからです。



重い内容は、抑えて語ります。



静かな声で。


淡々と。


事実だけを置いて。



抑制された語りのほうが、はるかに深く届きます。



前回の例を思い出してください。



母親が小学校の教師で、がんで亡くなり、交わした約束がある。


この内容を、声を震わせて語る必要はありません。


事実を並べるだけで、十分に届きます。


強い内容には、弱い語り方を合わせる。


この配分が、パトスの技術の中核にあります。



★方法その五 間を置く



感情には、生じるまでの時間が必要です。


言い終えた直後に次の話へ進むと、聞き手の中で感情が形になりません。


大切な一文を言い終えたあと、一拍置いてください。


その一拍の間に、聞き手の中で何かが動きます。


沈黙を恐れないでください。


間は、感情のための場所です。


話し続けることで埋めてしまうと、場所がなくなります。



★パトスの山は、一つか二つに絞ります



配分の話です。


全部の質問でパトスを狙うと、どれも薄まります。


面接全体の中で、最も熱を込める場面を一つか二つ決めておいてください。



志望動機で、一つ。


困難を乗り越えた経験で、一つ。



このくらいが適切です。


他の回答は、落ち着いて短く返します。


抑えた回答が並んでいると、山が山として立ち上がります。


全部を山にすると、平地になります。



どこを山にするかは、事前に決めておいてください。


その場の流れに任せると、中心のない面接になります。



★四つの歯止め



パトスは、最も強力で、最も誤用されやすい経路です。


歯止めを四つ置いておきます。



1.作り話は、使えません。



感動的な話を作っても、追質問で崩れます。


細部を問われたときに、根拠が出てきません。


語っている最中の表情も、言葉と合わなくなります。


パトスは、自分の人生の中にあるものを使う技術です。



2.過剰は、逆効果になります。



熱弁も、涙も、押しつけとして受け取られます。


抑えることが、技術です。



3.自分を憐れませてはいけません。



苦労話を、同情を求める形で語ると、評価は下がります。


採用側は、任せられる人を探しています。


憐れまれる立場に自分を置くと、その判断から外れます。


苦労は、乗り越えた過程として語ってください。



4.子どもを道具にしてはいけません。



これが、最も大切な歯止めです。


子どもの困難を、自分の点数を取るための材料として語る。


この姿勢は、面接官に伝わります。


子どものために語っているのか、自分のために語っているのか。


長く教育に携わってきた方々は、ここを敏感に見分けます。


そして、見分けられた瞬間に、エトスまで崩れます。



★第4回のまとめ



パトスは、自分が感情的になることではありません。


聞き手の中に感情が生じる条件を、整えることです。



狙う感情は、四つです。


共感、安心、親愛、期待。



とりわけ、安心が見落とされています。



条件を整える方法は、五つです。



細部で、目の前に立ち上がらせる。


主語を子どもに移す。


自分の感情は、一行だけ置く。


抑えて語る。


間を置く。



そして、山は一つか二つに絞ります。



次回は、三番目の経路、ロゴスを扱います。




河野正夫





 
 
 

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