第6回:モーダルチョイス 語りの様式を選ぶ。【面接で満点合格を目指すためのレトリック理論講座】(20回連載シリーズ)
【面接で満点合格を目指すためのレトリック理論講座】(20回連載シリーズ)
第6回:モーダルチョイス 語りの様式を選ぶ
★第一部の最後に、関門を置きます
次回から、語りを作る工程に入ります。
その前に、決めておかなければならないことがあります。
どの様式で語るのか、という選択です。
ここを決めないまま制作に入ると、あとで全部を作り直すことになります。

★モーダルチョイスという言葉
この言葉は、辞書に載っていません。
レトリカの講座とブログのために造った言葉です。
モーダルチョイスとは、モードを選択することです。
モードとは、形式、様式、スタイルのことです。
人は、相手と場面によって、語りの様式を変えています。
無意識に変えています。
職場での話し方。
友人との話し方。
初めて会う人との話し方。
どれも、同じ人の言葉です。
しかし、様式が違います。
面接では、この選択を意識的に行う必要があります。
★同じ人が、二通りに語ります
具体例から入ります。
友人に、なぜ中学校の教師を目指すのかを聞かれた場面です。
「だって、中学生って生意気でやんちゃだけど、あれで結構、一生懸命で可愛いんだよね。生徒指導も大変なところがあるけど、中学生くらいのやんちゃな子どもと毎日やりあっていると、結構、やりがいあるんだよね」
これが、日常モードです。
同じ人が、面接で同じことを聞かれると、こうなります。
「はい。中学校は、義務教育の最終段階で、子どもたちが次の選択をするための力を付ける必要がある場所です。私は、中学校教師として、そういった義務教育の最終段階にいる中学生たちに、将来の進路を確実に選択できるような力を付けてあげたいと思い、中学校を志望しています」
これが、受験作文モードです。
内容は、間違っていません。
義務教育の最終段階であることも、進路選択の力を付けることも、正しいことです。
しかし、ここで考えてみてください。
この二つ目の語りを、友人や家族の前で話せるでしょうか。
話したら、どう思われるでしょうか。
なんだか変な人だ。
ずいぶん堅苦しい。
本当にそう思っているのだろうか。
進路指導がしたくて中学校の教師なのか。
そう受け取られます。
★受験作文モードは、なぜ選ばれるのか
ここは、構造の話として見てください。
本人の能力とは、関係がありません。
理由が四つあります。
一つ。面接ではこう語るべきだという固定観念が、広く流通しています。
二つ。試験だと捉えているため、正解の言葉を探してしまいます。
三つ。緊張すると、覚えた言葉に逃げます。
四つ。対策本や模範解答の文体が、そのまま移ってきます。
真面目に準備した方ほど、この様式に入りやすくなります。
準備の量が多いほど、覚えた言葉の量も増えます。
そして、覚えた言葉には、覚えた文体がついてきます。
★面接官には、こう届いています
面接官経験者の言葉を、いくつか挙げます。
「大した志望動機がないから、そんな言葉になるのだ」
「面接ではこう語るべきだという、変な固定観念が作られている。でも、それは間違っている」
「作ってきた時点でもう、その志望理由そのものが嘘ということ。本心ではない」
「上辺だけの志望動機は、追加質問で色々尋ねてみると、いずれ答えられなくなったり、支離滅裂になったりして、すぐに自滅する」
厳しい言葉です。
ただし、ここで自分を責める必要はありません。
これは、受け取られ方の情報です。
受け取られ方が分かれば、直せます。
そして、直すのは中身ではありません。
様式だけです。
★受験作文モードが失敗する三つの仕組み
なぜ、この様式が機能しないのでしょうか。
仕組みを三つに分けます。
一つ目。エトスが崩れます。
受験のために作ってきたと分かった瞬間に、語り手への信頼が失われます。
第3回で、エトスは語り手への信頼だと述べました。
そのエトスが、様式の選択ひとつで消えます。
二つ目。追質問で自滅します。
本心ではないため、細部が出てきません。
なぜそう思うのかと問われたときに、答えが続きません。
さらに掘られると、支離滅裂になります。
三つ目。差別化できません。
受験作文モードは、全員が同じ文体になります。
同じ文体の中では、順位がつきません。
★正解は、三つ目のモードです
ここで、よくある誤解を防いでおきます。
では、友人に話すように話せばよいのでしょうか。
違います。
砕けた語尾。
友人相手の省略。
身内だけに通じる言い回し。
これらを面接で使えば、別の意味で失格します。
正解は、三つ目のモードです。
中身は、日常モードから取ります。
形式は、公式なものにします。
この組み合わせが、面接モードです。
中身と形式を、別々に扱う。
ここが、モーダルチョイスの考え方の中心です。
★面接モードの例
同じ内容を、面接モードで語ってみます。
「中学生は、反抗期ということもあり、やんちゃで、生徒指導もしづらいことがあります。でも、実際に中学校で講師をしてみて、中学生は反抗期でやんちゃかもしれませんが、しっかりと毎日を生きていると感じました。毎日、多くを学び、考え、感じています。私は、むしろ、そんなやんちゃな中学生の成長を支えてみたいと思いました」
この語りを、点検してみてください。
家族や友人の前で話せるでしょうか。
文体は敬体で丁寧ですが、話せます。
こっぱずかしさや、むずがゆさがあるでしょうか。
ありません。
そして、面接官は、これを本心として受け取ります。
まだ修正の余地はあります。
しかし、様式としては正しい位置にあります。
最初の例と比べてみてください。
内容の正しさでは、最初の例のほうが整っています。
しかし、届く力では、こちらが上です。
★様式を移す五つの手順
ここが、今回の実践の核です。
そして、順序に注意してください。
多くの受験者は、逆の順序で作業しています。
公式な文体から出発して、あとから気持ちを入れようとする。
この順序では、気持ちは入りません。
いったん受験作文モードで書いたものを、あとから温めようとしても、文体は変わりません。
正しい順序は、こうなります。
1.友人に話すつもりで、思いついたまま口に出します。
録音してください。
整える必要はありません。
言い直しても、詰まっても構いません。
2.そこから、本当に感じていることを抜き出します。
録音を聞き返すと、自分が本当に大切にしている一言が見つかります。
やんちゃだけど、一生懸命で可愛い。
毎日やりあっていると、やりがいがある。
こうした一言が、材料です。
3.砕けた語尾と話し言葉を、敬体に整えます。
ここで、形式だけを公式にします。
中身は、変えません。
4.順序を整えます。
結論を先に置き、場面を続けます。
5.こっぱずかしさテストにかけます。
その語りを、家族や友人の前で話せるかを考えてください。
話せなければ、どこかで受験作文モードに戻っています。
その箇所を探し、三の工程に戻ります。
★日常モードに寄りすぎた場合
歯止めも置いておきます。
次のものが残っていれば、寄りすぎています。
砕けた語尾。
省略の多い文。
身内だけに通じる言い方。
相手の反応を前提とした言い回し。
これらは、敬体に整える工程で落ちます。
迷ったら、こう考えてください。
初めて会う、年上の方に、丁寧に話す場面。
その程度の形式です。
くだけすぎてもいけませんが、堅くしすぎる必要もありません。
★第6回のまとめ
モーダルチョイスとは、語りの様式を選ぶことです。
日常モードは、面接では使えません。
受験作文モードも、面接では機能しません。
選ぶべきは、三つ目のモードです。
中身は日常モードから取り、形式を公式に整える。
そして、作業の順序が大切です。
公式な文体から出発しないでください。
友人に話す言葉から出発して、それを整えてください。
判定の方法は、一つです。
家族や友人の前で、その内容を語れるか。
ここまでで、この連載シリーズの第一部が終わります。
次回から、語りを作る工程に入ります。
なお、場にふさわしい様式を選ぶというこの考え方は、第20回でより大きな原理として戻ってきます。
河野正夫

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