第5回:ロゴス 筋道をどう通すか。【面接で満点合格を目指すためのレトリック理論講座】(20回連載シリーズ)
【面接で満点合格を目指すためのレトリック理論講座】(20回連載シリーズ)
第5回:ロゴス 筋道をどう通すか
★最も弱い経路に、なぜ一回を使うのか
第2回で、ロゴスを最も弱い経路としました。
エトスが最も強く、パトスが次に強く、ロゴスが最も弱い。
この順序は、変わりません。
それでも、一回分を使う理由があります。
弱いけれども、崩れると他の二つが死ぬからです。
筋道が通っていなければ、信頼は続きません。
話が散らかっていれば、感情も動きません。
ですから、今回の方向は、ロゴスを厚くすることではありません。
最小限の労力で、確実に満たす方法を扱います。

★ロゴスは、正しさではありません
ここが、出発点です。
多くの受験者は、ロゴスを正しさだと考えています。
正確な知識。
法令との整合。
施策との一致。
これらは、内容の属性です。
面接のロゴスは、別のものを指します。
聞き手が、最後まで追いかけられるかどうか。
正しさは、内容の中にあります。
筋道は、聞き手との関係の中にあります。
ここを混同すると、正しさの量を増やす方向へ進みます。
そして、増やすほど追いかけにくくなります。
正しいことを言っているのに伝わらないという状態は、ここから生まれます。
★三つの経路に共通すること
ここで、三回分をつなげておきます。
エトスは、聞き手が判断するものでした。
自分で名乗れません。
パトスは、聞き手の中に生じるものでした。
自分が感情的になることではありません。
ロゴスは、聞き手が追いかけられるかどうかでした。
自分が正しいこととは、別です。
三つとも、判定の場所が聞き手の側にあります。
第1回で述べた本質が、ここで三方向から確認できます。
★面接のロゴスは、二つの形で動きます
では、面接のロゴスは、どういう形を取るのでしょうか。
古典レトリックは、二つの形を挙げています。
例証。
エンテュメーマ。
数学で習うような厳密な証明は、面接では使いません。
この二つだけで動きます。
順に見ていきます。
★例証 一つの場面が、主張を支えます
例証とは、具体的な事例から主張を支える形です。
「生徒が自分から動き出す場面を大切にしています」
この主張だけでは、ロゴスが立ちません。
根拠がないからです。
ここに、一つの場面を置きます。
発表を嫌がっていた生徒が、班の中でなら話せるようになり、やがて全体の場でも手を挙げた。
主張と場面が対応していれば、それでロゴスは成立します。
面接のロゴスは、ほとんどがこの形です。
そして、ここに大きな利点があります。
例証は、パトスと同時に働きます。
場面を語れば、映像が立ち上がります。
映像が立ち上がれば、感情も動きます。
一つの材料で、二つの経路を満たせます。
★エンテュメーマ 結論を聞き手に置かせます
ここが、今回の中心です。
エンテュメーマという言葉は、聞き慣れないと思います。
日本語では、省略三段論法と訳されることがあります。
簡単な例から説明します。
友人に、こう言う場面を考えてください。
「傘を持っていったほうがいいよ。空が暗いから」
この一言で、相手は納得します。
では、ここで省略されているものは何でしょうか。
省略を全部埋めると、こうなります。
空が暗い。
空が暗いときは、雨が降ることが多い。
だから、傘を持っていったほうがいい。
真ん中の一行が、省略されていました。
そして、聞き手は、その一行を自分で埋めています。
無意識に、瞬時に埋めています。
これが、エンテュメーマです。
ここで、大切な点があります。
省略を全部埋めて話すと、どうなるでしょうか。
「空が暗い。空が暗いときは、雨が降ることが多い。だから、傘を持っていったほうがいい」
こう言われた相手は、どう感じるでしょうか。
そんなことは分かっている、と感じます。
子ども扱いされたように感じます。
つまり、全部言うことは、効率が悪いだけではありません。
聞き手を見下した形になります。
★面接では、どう使うのでしょうか
面接に当てはめてみます。
全部言う形を、まず見てください。
「その生徒は、卒業の日に、あのとき話を聞いてくれてありがとうと言ってくれました。生徒に寄り添えば、生徒は信頼を寄せてくれます。ですから私は、生徒に寄り添える教師だと考えています」
三行目を言った瞬間に、何が起きるでしょうか。
面接官は、押しつけられたと感じます。
そして、自分で判断する余地を失います。
エンテュメーマの形にします。
「その生徒は、卒業の日に、あのとき話を聞いてくれてありがとうと言ってくれました」
ここで止めます。
結論は、言いません。
すると、面接官の中で何が起きるでしょうか。
この人は、生徒の話を聞ける人なのだろう。
そういう結論が、面接官の側で生まれます。
自分で置いた結論は、与えられた結論よりはるかに強く残ります。
前の連載で、言い切らずに止めると述べました。
その理由が、ここにあります。
エンテュメーマは、聞き手に仕事をさせる技術です。
仕事をした聞き手は、自分の結論として納得します。
★どこまで省略すればよいのでしょうか
省略には、加減があります。
省略しすぎると、聞き手は埋められません。
話が飛んだように感じます。
省略が足りないと、押しつけになります。
目安は、一段だけです。
場面を語り、そこから出てくる当たり前の一歩を、聞き手に渡す。
このくらいが、ちょうど埋められる幅です。
二段も三段も飛ばすと、届きません。
★筋道を通す五つの条件
実際の作業に落とします。
五つの条件を満たせば、ロゴスは通ります。
1.問いに正対する。
これが、最も重要です。
面接でロゴスが崩れる最大の原因は、論理の粗さではありません。
聞かれたことと、答えたことがずれることです。
学級経営の方針を問われて、志望動機を語り始める。
困難への対処を問われて、理念を述べる。
この時点で、筋道は切れています。
まず、問いに正対してください。
2.結論を先に置く。
最初の一文で、何を答えるのかを示します。
聞き手は、方向が分かっていれば追いかけられます。
分からないまま聞くと、途中で追えなくなります。
3.根拠は一つに絞る。
三つ並べると、どれも浅くなります。
一つに絞ると、細部まで語れます。
細部のある根拠が、最も強く働きます。
4.一文に、一つの内容だけを入れる。
二つの内容を一文に入れると、音では追えません。
短く切ってください。
5.抽象の階段を上りすぎない。
抽象的な言葉が二つ続くと、聞き手の中で像が消えます。
主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善の推進。
この種の連なりは、音として聞くと内容が残りません。
抽象を一つ置いたら、次は具体に降りてください。
★知識は、ロゴスの材料にすぎません
ここで、誤解を一つ解きます。
教育法規を覚える。
学習指導要領を読み込む。
自治体の施策を調べる。
これらは、ロゴスの材料を集める作業です。
ただし、集めた材料を並べることは、ロゴスではありません。
知識は、筋道に組み込まれてはじめてロゴスになります。
主張があり、その主張を支える位置に知識が置かれている。
この形でなければ、知識は働きません。
並べただけの知識は、聞き手にとって追いかける対象になりません。
★ロゴスは、最小限で確実に満たします
配分の話です。
ロゴスは、必要条件です。
満たさなければ、他の二つが立ちません。
しかし、満たした以上に積み増しても、評価は伸びません。
ですから、こう考えてください。
ロゴスは、確実に満たす。
そして、そこで止める。
浮いた時間を、エトスとパトスに移す。
多くの受験者は、ロゴスを厚くする方向に時間を使っています。
その時間の一部を移すだけで、語りの強さが変わります。
★自分のロゴスを点検します
今日からできる作業です。
用意してある回答を、声に出して読んでください。
そして、五つの条件を確認します。
問いに正対しているか。
最初の一文に結論があるか。
根拠は一つに絞られているか。
一文に二つの内容が入っていないか。
抽象語が続いていないか。
ここで一つ、便利な方法があります。
自分以外の人に読んでもらい、要点を一言で言い返してもらってください。
言い返せれば、筋道は通っています。
言い返せなければ、どこかで切れています。
★第5回のまとめ
ロゴスは、正しさではありません。
聞き手が追いかけられるかどうかです。
面接のロゴスは、二つの形で動きます。
例証と、エンテュメーマです。
とりわけ、エンテュメーマが強く働きます。
結論を言わずに止めると、聞き手が自分で結論を置きます。
筋道を通す条件は、五つです。
問いに正対する。
結論を先に置く。
根拠を一つに絞る。
一文に一つの内容。
抽象を続けない。
そして、ロゴスは最小限で確実に満たします。
ここまでで、三つの経路がそろいました。
次回は、第一部の最後として、語りの様式の選択を扱います。
河野正夫

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