第3回:エトス 語り手への信頼をどう築くか。【面接で満点合格を目指すためのレトリック理論講座】(20回連載シリーズ)
【面接で満点合格を目指すためのレトリック理論講座】(20回連載シリーズ)
第3回:エトス 語り手への信頼をどう築くか
★最も強い経路を、どう築くか
前回、三つの経路(エトス・パトス・ロゴス)に強さの順序があることを示しました。
エトスが最も強く、パトスが次に強く、ロゴスが最も弱い。
今回は、その最も強いエトスの築き方を扱います。
そして最初に、エトスだけが持つ厄介な制約を押さえておきます。
ここを知らないまま準備を進めると、努力がそのまま逆効果になります。

★エトスは、自分で名乗れません
これが、出発点です。
「私は誠実です」
「私は責任感があります」
「私は信頼される教師になります」
これらを述べた瞬間に、エトスは下がります。
理由があります。
エトスは、聞き手が自分で判断するものです。
自己申告できる種類のものではありません。
名乗ると、かえって疑われます。
誠実だと言う人は、誠実さを証明できていないから言葉で補っている。
聞き手は、無意識にそう受け取ります。
ですから、エトスの技術は、すべて「名乗らずに示す」方法になります。
示す材料を置く。
判断は、聞き手に委ねる。
この形だけが機能します。
ここから先で扱うのは、すべてその方法です。
★エトスは、三つの要素でできています
アリストテレスは、エトスを三つに分析しました。
見識。
徳。
好意。
この三つがそろったとき、聞き手の中に信頼が生まれます。
そして、三つに分けられるということは、一つずつ点検できるということです。
漠然と信頼を高めようとする状態から、抜け出せます。
順に見ていきます。
★要素その一 見識
判断ができる人として映ることです。
教員採用試験の文脈では、こうなります。
子どもの様子から、何が起きているかを読み取れる。
限られた情報の中で、適切な手を選べる。
教育について、自分の考えを持っている。
では、どう示すのでしょうか。
考えを述べるだけでは足りません。
判断した場面を語ります。
あのとき、何が見えたか。
何を迷ったか。
どちらを選んだか。
なぜ、そちらを選んだか。
判断の過程が語られると、聞き手はその人の見識を推し量ります。
例を比べてみてください。
「子ども一人ひとりの様子をよく見るようにしています」
これは、結論だけです。
誰でも言えます。借り物に聞こえます。
「朝の提出物を集めるときに、その子だけが目を合わせませんでした。前の日まではそうではなかったので、休み時間に声をかけることにしました」
これは、判断の過程です。
何を見て、どう考え、どう動いたかが入っています。
後者を聞いた面接官の中に、見識が立ち上がります。
★要素その二 徳
誠実な人として映ることです。
ここで、意外に効く方法があります。
うまくいかなかった経験を、正直に語ることです。
成功だけを並べる語りは、徳を示しません。
聞き手は、都合のよい部分だけを出していると感じます。
一方、こういう語りがあります。
あのとき、自分の判断が甘かった。
生徒の様子に気づくのが遅れた。
その結果、どうなったか。
そこから、何を学んだか。
この形は、強く徳を示します。
自分に不都合なことを話せる人として映るからです。
隠さない人だと、受け取られます。
そして、面接官の立場で考えてみてください。
採用後、何か問題が起きたときに、隠す人と報告する人。
どちらを採用したいでしょうか。
徳を示すことは、そのまま採用の判断材料になります。
ただし、歯止めが必要です。
失敗を語って終わると、頼りない人として残ります。
失敗と、そこから変わった行動を、必ず対にしてください。
気づくのが遅れた。
だから、それ以降は毎朝の様子を記録するようにした。
この形で閉じます。
★要素その三 好意
誰のために語っているかが、伝わることです。
同じ経験を語っても、主語が変わると受け取られ方が変わります。
自分が主語の語り。
私は、こう工夫しました。
私は、こう成長しました。
私は、こう努力しました。
子どもが主語の語り。
その子は、三週目に自分から質問に来るようになりました。
あの生徒は、卒業の日に手紙をくれました。
後者を聞いた面接官は、この人は子どものために働く人だと受け取ります。
自分の功績を語らずに、自分の価値を伝える形です。
そして、もう一つの好意があります。
学校という組織への好意です。
一人で抱え込まずに相談した場面。
他の先生方から学んだ場面。
学年全体で動いた場面。
こうした語りが、組織の一員として働ける人という像を作ります。
好意は、三つの要素の中で最も見落とされています。
そして、最も簡単に足せます。
主語を入れ替えるだけで、足りてしまう場合もあります。
★二種類のエトスがあります
ここで、理論の整理を一つ入れます。
エトスには、二種類あります。
一つは、持ち込むエトスです。
面接票に書かれた経歴。
実績。
職歴。
免許の種類。
面接室に入る前から、そこにあります。
もう一つは、語りが作るエトスです。
その二十分の中で、ゼロから立ち上がるものです。
アリストテレスが重視したのは、後者でした。
語りによって作り出されるエトスが、技術の対象になると考えたからです。
持ち込むものは、技術の外側にあります。
ここに、受験者にとって大きな意味があります。
持ち込むエトスが薄い方でも、語りの中でエトスを立ち上げられます。
面接室に入った時点では横一線だと考えてください。
★実績がなくても、三つは示せます
前回、全国大会優勝という例を挙げました。
こう思われた方が、いるかもしれません。
自分には、そんな実績はない、と。
ここを、はっきりさせておきます。
見識、徳、好意。
この三つは、実績がなくても示せます。
見識は、日々の判断の場面から示せます。
派手な成果はなくても、判断した瞬間は誰にでもあります。
徳は、うまくいかなかった経験から示せます。
これは、むしろ経験の浅い方のほうが語りやすい領域です。
好意は、子どもを主語にするだけで示せます。
実績とは、まったく関係がありません。
実績は、エトスの材料の一つにすぎません。
材料がなくても、三つの要素は組み立てられます。
むしろ、大きな実績を持つ方には、別の難しさがあります。
語り方を誤ると、自慢として受け取られます。
その瞬間に、エトスは下がります。
実績がある方もない方も、同じ三要素で勝負することになります。
★エトスを壊す六つの行為
エトスには、非対称な性質があります。
築くには時間がかかり、壊れるのは一瞬です。
ですから、壊す行為を知っておくことが、築く技術より先に来ます。
1.自慢する。
成果を自分のものとして語ると、その瞬間に下がります。
2.他者を批判する。
前の職場、同僚、管理職。
誰かを悪く言った瞬間に、聞き手は身構えます。
この人は、うちの学校でも同じことを言うだろうと受け取られます。
3.言い逃れをする。
うまくいかなかった理由を、環境や他人に置くと、責任を取らない人として映ります。
4.知らないことを、知っているふりをする。
面接官は、その分野で長く仕事をしてきた方々です。
取り繕った答えは、即座に見抜かれます。
知識の不足より、誠実さの不足のほうが、はるかに重く響きます。
5.断定を強くしすぎる。
強い語尾が続くと、話を聞かない人として映ります。
採用後に指導が入らない人ではないかと、面接官は身構えます。
6.過度に自分を低く言う。
謙遜も、行きすぎると逆に働きます。
任せて大丈夫だろうかという疑いが生まれます。
この六つを避けるだけで、エトスは保たれます。
★エトスは、入室の瞬間から働き始めます
時間の話を押さえておきます。
エトスには、先行するという性質があります。
まだ一言も話していない段階で、すでに判断が始まっています。
扉の開け方。
歩き方。
椅子の前での姿勢。
最初の表情。
ここで作られた最初の印象が、その後の語りの受け取り方を決めます。
信頼できそうだという枠ができていれば、続く話は好意的に解釈されます。
疑わしいという枠ができていれば、同じ話が別の意味で受け取られます。
エトスは、他の二つ(パトス、ロゴス)に先立って働きます。
ここが、三つのうちで最も強い理由でもあります。
パトスもロゴスも、エトスという枠の中で受け取られます。
ですから、入室から着席までの数十秒は、最も投資効率の高い区間になります。
想定外の質問がなく、完全に設計できる区間だからです。
★自分のエトスを点検します
今日からできる作業です。
用意してある回答を、三つの要素で点検してください。
見識を示している部分はあるか。
判断した場面が、入っているか。
徳を示している部分はあるか。
うまくいかなかった経験が、どこかにあるか。
好意を示している部分はあるか。
子どもが主語になっている文が、あるか。
三つのうち、欠けている要素が必ず見つかります。
そこに、一行足してください。
一行で、エトスは変わります。
★第3回のまとめ
エトスは、自分で名乗れません。
示す材料を置いて、判断を聞き手に委ねます。
エトスは、三つの要素でできています。
見識、徳、好意です。
実績がなくても、三つは組み立てられます。
そして、壊す行為を避けることが、築く技術より先に来ます。
次回は、二番目に強い経路、パトスを扱います。
河野正夫


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