第2回:説得の三様式 エトス・パトス・ロゴス 【面接で満点合格を目指すためのレトリック理論講座】(20回連載シリーズ)
【面接で満点合格を目指すためのレトリック理論講座】(20回連載シリーズ)
第2回:説得の三様式 エトス・パトス・ロゴス
★結果と経路を分けます
前の連載で、好感・共感・好印象という三つの感情を繰り返し扱いました。
これは、聞き手の側に起きる結果です。
面接官の中で、何が起きればよいのかを示したものです。
今回から扱うのは、その結果を起こす経路です。
エトス
パトス
ロゴス
到達点の名前は、すでに知りました。
次は、そこへ至る道を知る段階に入ります。

★二千年前に、三つに整理されました
アリストテレスは『弁論術』の中で、人を納得させる手段を三つに整理しました。
エトス、パトス、ロゴスです。
以来、二千年以上にわたって、この分類が使われ続けています。
これほど長く生き残った分類は、そう多くありません。
現代のコミュニケーション理論でも、この三つが土台として扱われています。
★なぜ、三つなのでしょうか
分類が生き残った理由があります。
語りという営みには、三つの要素があります。
語り手。
聞き手。
語られる内容。
この三つです。
そして、説得の経路も、この三つの要素からそれぞれ生まれます。
エトスは、語り手の側から生まれる説得です。
パトスは、聞き手の側で生まれる説得です。
ロゴスは、内容の側から生まれる説得です。
ですから、三つです。
★三つには、強さの順序があります
ここが、今回の中心です。
三つは、対等ではありません。
説得の強さに、はっきりとした順序があります。
エトス、パトス、ロゴスの順です。
エトスが最も強く、パトスが次に強く、ロゴスが最も弱くなります。
この順序を知っているかどうかで、準備の配分がまったく変わります。
順に見ていきます。
★最も強いのは、エトスです
エトスとは、語り手その人への信頼です。
人徳と言い換えてもよい領域です。
なぜ、これが最も強いのでしょうか。
理由は、エトスが他の二つの前提になるからです。
信頼していない相手の話は、どれほど筋が通っていても響きません。
疑いながら聞いている相手には、正しさが届きません。
信頼している相手の話は、多少の飛躍があっても受け入れられます。
この人が言うのだから、そうなのだろうと受け取られます。
エトスは、他の二つが働くための土台です。
土台が崩れていれば、上に何を積んでも立ちません。
そして、エトスには強力な材料があります。
実績です。
たとえば、全国大会で優勝した経験を持つ受験者がいるとします。
この事実が語られた瞬間に、その人の語りには信頼性が生まれます。
何かを成し遂げた人の言葉として、面接官の耳に入ります。
指導論を語れば、実際に結果を出した人の指導論として聞かれます。
努力について語れば、努力を知っている人の言葉として届きます。
同じ内容を、実績のない受験者が語った場合と比べてください。
言葉の重みが、まるで違います。
ここで、一つ押さえておくことがあります。
実績そのものは、面接の場では動かせません。
すでに決まっています。
しかし、持っている実績をエトスに変換できるかどうかは、技術の問題です。
実績を持っていても、それを語れない受験者がいます。
逆に、派手な実績がなくても、日々の実践からエトスを立ち上げる受験者がいます。
ここに、準備の余地があります。
★次に強いのは、パトスです
パトスとは、聞き手の感情が動くことです。
なぜ、ロゴスより強いのでしょうか。
理由があります。
心が動いた聞き手は、評価者の位置から離れます。
検証する姿勢から、受け止める姿勢へ移ります。
この主張は正しいだろうかという問いが、いったん止まります。
そして、感情が動いた場面は、記憶に残ります。
例を挙げます。
母親が、小学校の教師でした。
その母親が、がんで亡くなりました。
亡くなる前に交わした約束があり、それが小学校の教師を目指す出発点になっています。
この語りを聞いた面接官の中で、何が起きるでしょうか。
正しさを検証する動きは、止まります。
一人の人間の人生として、受け取られます。
そして、面接が終わったあとも、この受験者の像は残ります。
評価票に点数を書き込む段階でも、その語りが残っています。
パトスは、きわめて強力に働きます。
ここで、一つ歯止めを置いておきます。
この種の語りが力を持つのは、それが本当のことだからです。
作り出した話は、追質問で崩れます。
細部を問われたときに、根拠が出てきません。
語っている最中の表情も、言葉と合わなくなります。
パトスは、自分の人生の中にあるものを使う技術です。
ないものを作り出す技術ではありません。
★最も弱いのは、ロゴスです
ロゴスとは、語られる内容の筋道です。
正しさ、適切さ、論理の整合です。
なぜ、最も弱いのでしょうか。
理由は二つあります。
一つ目。
面接は、論争の場ではありません。
面接官は、受験者の主張に反論しようとしているわけではありません。
この人と一緒に働きたいかを判断しています。
その判断に、論理の精密さはあまり効きません。
二つ目。
正しさでは、差がつきません。
正しい答えは、誰でも用意できます。
会場にいる受験者の多くが、同じように正しいことを述べます。
主体的・対話的で深い学びを実現したい。
一人ひとりに寄り添いたい。
チーム学校として連携したい。
どれも正しく、どれも適切です。
そして、同じものが並んだとき、そこでは順位がつきません。
ただし、ロゴスを捨ててよいという話ではありません。
筋道が崩れていれば、エトスもパトスも持続しません。
言っていることが支離滅裂であれば、信頼は失われます。
ロゴスは、必要条件です。
必要だけれども、それだけでは足りない。
この位置づけになります。
★多くの受験者は、最も弱いものに全部を注いでいます
ここが、実用上の核心です。
準備の時間を、どこに使っているでしょうか。
志望自治体の施策を調べる。
法令を確認する。
正しい答えを探す。
言い回しを整える。
模範解答を覚える。
これらはすべて、ロゴスの作業です。
試験だと捉えているため、正しさで勝とうとします。
受験作文として、適切なことを述べようとします。
その結果、こうなります。
最も弱い経路に、最大の時間を投じている。
最も強い二つが、空席のまま本番を迎える。
準備量は十分なのに結果が出ないという状態は、たいていこの配分から生まれます。
足りないのは努力ではありません。
配分です。
★強さの順序は、差別化できる順序でもあります
もう一つの対応関係を示しておきます。
ロゴスは、外から手に入ります。
対策本に書いてあります。
生成AIも出力します。
講座でも教わります。
誰でも手に入るものには、差別化の力がありません。
パトスとエトスは、外から手に入りません。
あなたの人生の中にしかありません。
あなたの経験の中にしかありません。
あなたが積み上げてきたものの中にしかありません。
強いものほど、他人には真似できない。
この対応が、きれいに成り立っています。
ですから、エトスとパトスに時間を移すことは、そのまま差別化に時間を移すことになります。
二つの効果が、同時に生まれます。
★三つは、独立していません
ここで、注意点を一つ。
三つを別々に準備する必要はありません。
一つの文が、三つすべてを運ぶことがあります。
「一人で抱え込まずに、学年主任の先生に相談しました」
この一文を見てください。
相談できる人として映る点で、エトスが立ち上がります。
協働を重んじる面接官の価値観に触れる点で、パトスが動きます。
困難への対処として筋が通っている点で、ロゴスが満たされます。
三つは、別々の作業ではありません。
一つの語りの中で、同時に働きます。
優れた語りは、短い一文で三つを同時に満たしています。
★自分の配分を点検します
今日からできる作業を、一つ示します。
用意してある回答を、一つ選んでください。
そして、一文ごとに、三つのどれを作っているかを書き込んでいきます。
エトスを作っている文には、エ。
パトスを作っている文には、パ。
ロゴスを作っている文には、ロ。
書き終えたら、三つの数を数えてください。
ロばかりが並んでいれば、そこが伸びしろです。
そして、エとパを足せる場所を探してください。
一行足すだけで、語りの強さが変わります。
★第2回のまとめ
語りの要素は、三つです。
語り手、聞き手、内容。
そこから、三つの経路が生まれます。
エトス、パトス、ロゴス。
そして、強さには順序があります。
エトス、パトス、ロゴスの順です。
多くの受験者は、最も弱いロゴスに準備のすべてを注いでいます。
正しさだけでは、面接官は納得しません。
エトスとパトスが、そこに必要です。
次回から、三つを一つずつ扱っていきます。
順序は、エトス、パトス、ロゴスです。
強い順に進みます。
河野正夫


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