第29回:教採の面接の限界点。 【初歩から学ぶ面接合格戦略】(30回連載シリーズ)
【初歩から学ぶ面接合格戦略】(30回連載シリーズ)
第29回:教採の面接の限界点
<面接で合格したい方は、必ず読んでください!
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★前回の基準を、試験そのものに向けます
前回、科学とは何かを定義しました。
観測する。
測定する。
仮説を立てる。
検証する。
理論化する。
再現できる状態にする。
この手続きが、科学を科学にします。
今回は、その基準を教員採用試験の面接そのものに向けてみます。
この試験は、測定器としてどの程度のものなのでしょうか。
受験者としては、あまり考えたくない問いかもしれません。
自分の将来を決める試験が、どれほど精密なのか。
調べてみると、気持ちが揺れるかもしれません。
しかし、ここを正確に把握しておくと、準備の方向が大きく変わります。
最後まで読んでいただければ、その理由が分かります。

★測定の三つの基準を定義します
人の能力や適性を測るとき、測定器の性能を評価する基準があります。
三つです。
1.妥当性。
測りたいものを、本当に測れているか。
体重を測りたいのに身長を測っていては、妥当性がありません。
教師としての適性を測りたいのに、別のものを測っていれば、同じことになります。
2.信頼性。
同じ条件で測れば、同じ結果が出るか。
同じ人が同じ体重計に乗って、一回目は五十キロ、二回目は七十キロと表示されたら、その体重計は信頼できません。
3.再現性。
別の人が測っても、同じ結果になるか。
ある人が測ると五十キロ、別の人が測ると七十キロ。
そうなれば、測定の結果に意味がなくなります。
この三つが、測定器の性能を決めます。
心理測定や人事評価の分野では、基本となる概念です。
では、教員採用試験の面接を、この三つの基準で見てみましょう。
まず、この試験の特徴を五つ確認します。
★特徴その一 面接官は人事採用のプロではありません
面接室に座っているのは、次のような方々です。
校長。
教頭。
教育委員会の指導主事。
教育センターや研修センターの所長。
人事課の中間管理職。
自治体によっては、民間人面接官。
いずれも、教育には精通しています。
長年、現場や行政で働いてきた経験を持っています。
しかし、人材採用の専門家ではありません。
対人評価の専門家でもありません。
そして、面接官として任命されるのは、夏の数日間だけです。
一年のうちの、わずかな期間です。
★特徴その二 三十分程度の面接が、一回から二回だけです
民間企業の採用を考えてみてください。
一次面接。
二次面接。
部門長面接。
最終面接。
複数回にわたって、異なる面接官が、異なる角度から候補者を見ます。
一人の候補者に、何時間もかけます。
教員採用試験の面接は、一回から二回です。
一回あたり、二十分から三十分程度です。
合計しても、一時間に届かない場合があります。
その短い時間で、三十年、四十年にわたる職務人生が判断されます。
★特徴その三 構造化面接の手法が取られていません
ここで、構造化面接という手法を紹介します。
産業心理学の分野で、評価の精度を高めるために開発された方法です。
内容は、次のようなものです。
すべての受験者に、同じ質問を、同じ順序で行います。
回答を評価する基準を、あらかじめ段階ごとに定めておきます。
この水準の答えなら三点、この水準なら四点、と決めておきます。
そして、訓練を受けた複数の評価者が、独立して採点します。
こうすると、評価者による差が小さくなります。
測定の精度が、大きく上がります。
教員採用試験の面接は、この形になっていません。
質問は、面接官がその場で考えます。
面接票やエントリーシートを見ながら、その受験者に合わせて聞きます。
質問の順序も、内容も、受験者ごとに変わります。
評価の基準も、段階ごとに言語化されてはいません。
評価の観点が並んでいるだけです。
★特徴その四 評価は面接官の主観で決まります
評価票には、観点が並んでいます。
教育への情熱。
使命感。
コミュニケーション能力。
責任感。
協調性。
しかし、各観点に何点をつけるかは、面接官が受け取った印象から決まります。
質問ごとの答えを記録して、照合して、計算するわけではありません。
面接が終わったあと、残った人物像から各欄に点数が入っていきます。
★特徴その五 面接官へのトレーニングがありません
面接官のための資料は配られます。
評価の観点も示されます。
注意事項も伝えられます。
しかし、面接技法の訓練は行われません。
どう質問すれば、受験者の本質が引き出せるか。
どう聞けば、答えの深さが測れるか。
自分の判断にどんな偏りが入りやすいか。
こうした訓練の機会は、ほとんどありません。
さらに、評価者間で基準をそろえる手続きも行われていません。
同じ答えを聞いて、ある面接官は四点をつけ、別の面接官は二点をつける。
その差を事前に調整する作業が、入っていません。
★三つの基準で評価してみます
ここで、測定器としての評価を出してみましょう。
☆妥当性について。
教師としての適性を、三十分の会話で測れているでしょうか。
授業力は、見ていません。
子どもとの関わり方も、見ていません。
同僚との協働も、保護者への対応も、実際には見ていません。
見ているのは、面接室での語りと振る舞いだけです。
そこから適性を推測しているわけですから、妥当性には疑問が残ります。
☆信頼性について。
同じ受験者が、別の日に同じ面接を受けたら、同じ評価になるでしょうか。
その日の体調。
緊張の度合い。
前の受験者との対比。
面接官の疲労。
これらが変われば、評価も動きます。
信頼性は、保証されていません。
☆再現性について。
別の面接官が担当したら、同じ評価になるでしょうか。
校長が見た評価と、指導主事が見た評価。
民間人面接官が見た評価。
それぞれの立場と主観で、違う結果が出ます。
再現性も、保証されていません。
三つの基準のいずれにおいても、厳密な測定器としては成立していません。
これが、教員採用試験の面接の限界点です。
★ここからが本題です
さて、この限界は、受験者にとって何を意味するのでしょうか。
ここで、視点を切り替えてください。
精密な測定器の前では、受験者にできることは限られます。
たとえば、筆記試験を考えてみてください。
答えが決まっていて、採点基準も決まっています。
そこで点を上げる方法は、一つだけです。
知識を増やすこと。
測定が厳密であれば、測られる能力そのものを上げるしかありません。
見せ方の工夫が入る余地は、ほとんどありません。
緩い測定器の前では、事情がまったく変わります。
測定結果を動かす余地が、大きく残されています。
★緩い測定器では、レトリックが大きく効きます
ここが、今回の核心です。
評価が面接官の主観で決まるということは、主観に働きかけられるということです。
好感を生む。
共感を生む。
好印象を残す。
これらは、すべて主観に対する働きかけです。
そして、主観以外に評価の根拠がない場では、この働きかけが最大の効果を発揮します。
考えてみてください。
面接官は、採用の専門家ではありません。
評価の基準を、段階ごとに持っているわけでもありません。
訓練も受けていません。
その方々が、三十分の会話で判断を下します。
ここに、レトリックが働く広い余地があります。
面接官の心は、動かしやすい。
好感・共感・好印象を勝ち取ることは、十分に可能です。
二千年にわたって研究されてきた理論を、こうした場に持ち込む。
効果は、はっきりと表れます。
★厳密な面接であれば、どうなるでしょうか
対比を置いておきます。
完全に構造化された面接を想像してみてください。
全受験者に、同じ質問が、同じ順序で出されます。
回答の水準ごとに、点数が決められています。
訓練を受けた五人の評価者が、独立に採点します。
その平均値が、評価になります。
こうした場では、語りの工夫が入る隙間は小さくなります。
印象で点が動く幅も、小さくなります。
教員採用試験の面接は、その逆の条件にあります。
工夫が入る余地が、大きく残っています。
印象で点が動く幅も、大きく残っています。
この条件を、どう使うか。
そこで、結果が分かれます。
★ただし、易しい試験という意味ではありません
ここで、歯止めを置いておきます。
測定の精度が緩いことと、競争が緩いことは、まったく別の話です。
高倍率の志望先では、多くの受験者が不合格になります。
定員一名という区分も、実際に存在します。
緩いのは、測定の仕組みです。
競争の厳しさは、変わりません。
むしろ、こう考えてください。
測定が緩い場での競争は、準備の質の差がそのまま出ます。
筆記試験であれば、知識の量で順位が決まります。
面接では、知識の量では決まりません。
見せ方の設計で、差がつきます。
そして、見せ方の設計は、ほとんどの受験者が手をつけていない領域です。
ここに、戦略の価値があります。
★では、何をするのでしょうか
この認識の上で、これまでの連載を並べ直してみます。
面接官が誰かを知る。
その人が日ごろ信じていることに接続する。
自分の経験を、自分の言葉で語る。
事実の伝達より、好感・共感・好印象を優先する。
納得を生む語りに整える。
印象とイメージを設計する。
戦略を立て、脚本を書き、演出を整える。
役として、面接室に座る。
すべて、主観に働きかける技術です。
測定器が緩い場であるから、これらが効きます。
逆に言えば、測定が厳密な場であれば、これらの技術の価値は小さくなります。
教員採用試験の面接という場は、レトリックが最も効く場の一つです。
★第29回のまとめ
教員採用試験の面接は、測定器として厳密ではありません。
面接官は、採用の専門家ではありません。
面接は、三十分程度が一回から二回だけです。
構造化面接の手法は、取られていません。
評価は、面接官の主観で決まります。
面接官への訓練も、評価者間の調整もありません。
妥当性、信頼性、再現性。
いずれの基準においても、限界があります。
しかし、その限界は、受験者にとって不利な条件ではありません。
主観で決まる場では、主観に働きかける技術が、最大の力を持ちます。
ここまでの29回で扱ってきたことは、すべてその技術でした。
次回、この連載を締めくくります。
河野正夫

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