第18回:面接官の意図は実は希薄。【初歩から学ぶ面接合格戦略】(30回連載シリーズ)
【初歩から学ぶ面接合格戦略】(30回連載シリーズ)
第18回:面接官の意図は実は希薄
★面接官は、採用のプロフェッショナルではありません
面接官として面接室に座るのは、学校の管理職、教育委員会の中間管理職、そして、自治体によっては民間人面接官です。
この方々は、優れた人材を採用しようという熱意を持っています。
教育については、深い経験も持っています。
しかし、人事採用のプロフェッショナルではありません。
面接という対人コミュニケーションのプロフェッショナルでもありません。
面接官の仕事をするのは、夏の数日間だけです。
一年のうちの、わずかな期間です。
この事実は、面接の準備の仕方に、大きな影響を与えます。

★この回で扱う「意図」を定義します
まず、言葉の範囲をはっきりさせておきます。
ここで言う意図とは、その特定の面接に関して面接官が持つ、質問ごとの評価目標と評価基準のことです。
この質問で、この能力を測る。
この質問で、この資質を判断する。
この基準を満たしていれば、何点をつける。
そうした設計思想を指します。
この意味での意図は、実は希薄です。
★評価目標としての意図が希薄である理由
理由は、構造にあります。
面接官は、面接技法の訓練を受けた専門家ではありません。
短期間の説明を受けて、面接室に座ります。
質問項目は、自治体から示される場合が多くあります。
しかし、その一つひとつを、どの評価観点に、どう紐づけるか。
そこまで体系的に設計された資料が、面接官の手元にあるわけではありません。
ですから、こういう処理は実際には起きていません。
一問目の答えを聞いて、コミュニケーション能力の欄に四点をつける。
二問目の答えを聞いて、教育に対する情熱の欄に三点をつける。
こうした機械的な採点は、行われていません。
★では、面接官は何をしているのでしょうか
面接官は、関連質問を重ねながら、主観的に判断しています。
この人を、子どもの前に立たせたらどうだろうか。
この人に、保護者対応を任せたらどうだろうか。
この人と、職員室で机を並べたらどうだろうか。
一連のやり取りを通じて、こうした印象を形づくっていきます。
個々の質問は、その印象を作るための材料にすぎません。
質問そのものが、独立した測定装置として働いているわけではありません。
★面接官が普段から思っていることは、別の層にあります
ここが、今回で最も丁寧に読んでいただきたい部分です。
評価目標が希薄であることと、面接官が何も持っていないことは、まったく違います。
面接官は、管理職として、日ごろ大切にしている考えを持っています。
子どもの安全を、何より優先したい。
問題を一人で抱え込まない教員に来てほしい。
保護者と誠実に向き合える人であってほしい。
同僚と力を合わせられる人を迎えたい。
これは、その日の面接のために用意された評価基準ではありません。
その人が、長年の職務の中で抱き続けてきた信条です。
面接官が質問するとき、事前に設計された採点表は手元になくても、この信条は常に働いています。
受験者の語りを聞きながら、自分の信条と照らし合わせています。
★受験者が合わせるべきなのは、信条の方です
ここから、準備の方向が決まります。
質問ごとの採点基準を当てにいく準備は、当たりません。
基準そのものが、精密には存在しないからです。
この質問はコミュニケーション能力を見ている。
だからこの要素を入れる。
こうした対応表を作っても、面接官の側にその対応表がありません。
一方で、面接官が日ごろ信じていることを、自分の経験と自分の言葉で語ること。
これは、常に効きます。
相手が信じてきたことが、別の人生を歩んできた人の経験によって裏づけられる。
その瞬間に、共感と納得が生まれます。
この連載で繰り返し述べてきた原理は、採点基準への対応策ではありません。
人が人を評価する場で働く、普遍的なレトリックの原理です。
採点設計が希薄な場であっても、この原理は確実に機能します。
★意図が希薄だと、何が起きるか
受験者にとっての帰結は、三つあります。
1.一問ごとの正解を探す準備は、費用対効果が低くなります。
想定問答を百問作り、それぞれに完璧な答えを用意する。
この作業に膨大な時間をかけても、評価は思ったほど動きません。
2.面接全体を通した印象が、結果を決めます。
十五分から二十分のやり取りを終えたあと、面接官の中に何が残っているか。
そこが、評価票の点数になります。
3.質問ごとの出来不出来に、一喜一憂する必要がありません。
一問うまくいかなくても、全体の印象が良ければ、評価は保たれます。
逆に、一問ごとに整った答えを並べても、印象が薄ければ結果は動きません。
面接の途中で、うまく答えられなかった質問が出てきます。
そこで焦ると、残りの時間すべてに影響します。
一問の失敗は、全体の中では小さな出来事だと覚えておいてください。
★意図が希薄だから、受験者が主導権を握れます
ここが、今回の中心です。
質問に精密な採点設計がないということは、その質問に何を乗せるかを、受験者の側で決められるということです。
面接官は、答えを採点表と照合しているわけではありません。
その語りから受け取った印象で、判断しています。
ということは、どの質問から始まっても、自分が残したい印象へ向かうことができます。
趣味を問われたとします。
その答えの中に、自分の人物設定を乗せられます。
学生時代の話を問われたとします。
その答えの中に、自分の教育観を乗せられます。
質問が何であっても、着地点は自分で決められます。
脚本の人物設定が効く理由は、ここにあります。
一本の線を持っていれば、どの入り口から入っても、同じ場所に出られます。
★ただし、質問を無視してはいけません
ここには、歯止めが必要です。
どの質問からでも自分の方向へ進めるとはいえ、問われたことに答えないまま自分の話を始めてはいけません。
趣味を聞かれて、いきなり教育論を語り始める。
学生時代のことを聞かれて、志望動機を述べ始める。
これをやると、対話が成立しない人だと判断されます。
面接官の中に、強い違和感が残ります。
順序を守ってください。
まず、問われたことに答えます。
その上で、自分の方向へつなげます。
この順序さえ守れば、自由度は非常に高くなります。
★面接官の主観に届くための三つの確認
自分の回答を点検するとき、次の三つを確認してください。
1.この回答から、面接官はどんな人物像を受け取るか。
2.その人物像は、自分が残したい像と一致しているか。
3.三人の面接官のうち、誰の主観にも受け入れられる内容か。
採点基準を当てにいく視点は、ここでは使いません。
印象を基準に点検します。
この視点で自分の原稿を読み返すと、直すべき箇所が見えてきます。
★第18回のまとめ
その面接のための評価目標としての意図は、希薄です。
面接官は、採用の専門家ではありません。
質問ごとの採点設計を持って、面接室に座っているわけではありません。
しかし、面接官が普段から抱いている信条は、常にそこにあります。
狙うべきは、採点設計ではありません。
面接官が日ごろ信じていることです。
一問ごとの正解を探す準備から離れて、面接全体で一つの人物像を届ける。
意図が希薄であることは、受験者にとって不利な条件ではありません。
主導権を握れる条件です。
河野正夫

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