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第17回:記憶。【面接で満点合格を目指すためのレトリック理論講座】(20回連載シリーズ)

執筆者の写真: 河野正夫
河野正夫
19 時間前
読了時間: 9分

【面接で満点合格を目指すためのレトリック理論講座】(20回連載シリーズ)


第17回:記憶



★記憶には、二つの仕事があります



レトリックの五つの工程、発想・構成・修辞・記憶・演出のうち、記憶は四番目です。


発想で角度を決め、構成で順番を決め、修辞で言葉を決めました。できあがった答えを頭に入れる工程が、記憶です。


ただ、記憶の仕事は、それだけではありません。二つあります。



一つ目は、決めた答えを覚える仕事です。



二つ目は、用意していない質問に答えるための材料を蓄える仕事です。



古代の弁論でも、この二つが記憶の工程に入っていました。


原稿を覚えるだけでなく、その場で使える材料を手元に蓄えておく。


両方が記憶の作業でした。



面接でも同じです。想定していた質問が来ることもありますし、こちらの答えから作られた質問が来ることもあります。


後者に答えるのは、蓄えのほうです。



一つ目の仕事だけをやって面接に入ると、用意した質問には答えられて、追質問で止まります。


二つを分けて考える必要があります。



この記事の前半で、決めた答えの覚え方を説明します。


後半で、蓄えの作り方を説明します。





★一字一句で覚えるもの



まず、決めた答えの覚え方です。


答え全体を一字一句で覚える作業は、しません。


覚えるのは、三つだけです。



一つ目は、第16回で作った一行です。


「私にとっての授業は、分からないと言える場をつくる時間です。」


この一行は、言葉を変えません。


磨いた一行ですので、言い換えると弱くなります。


語を一つ足すだけで字数が増えて、音も変わります。


一字一句で覚えます。



二つ目は、数と固有の言葉です。


三週間。十人以上。二か月。三分。


数を言い間違えると、信用が落ちます。


そして、言い直すと場面が崩れます。


単元の名前や行事の名前も、ここに入ります。


実際に扱った単元の名前が出てくると、聞いている側は、その教室を思い浮かべます。



三つ目は、子どもの言葉です。


ここが分かっていなかった。


教室はずっと誰かと話していないといけない感じがする。


子どもが実際に言った言葉は、言い換えません。


言い換えると、こちらの言葉になります。


子どもの言葉として残っているから、聞いている側に届きます。


この三つを合わせても、一つの答えで四十字から五十字ほどです。



★骨だけ覚えるもの、覚えないもの



次に、骨だけ覚えるものです。二つあります。



一つ目は、結論の文の始め方です。


第10回で、面接の答えは一文目に結論を述べると説明しました。


そして第12回で、結論の文は問いの言葉を借りて作ると説明しました。


ですから、覚えるのは文そのものではありません。


始め方です。



私が工夫しているのは。


私がまず動くのは。


私が気をつけているのは。



この始め方を覚えておけば、問いを聞いてから一文目を作れます。



二つ目は、型の順序です。



PREP法なら、結論、理由、具体例、結論。



STAR法なら、状況、課題、行動、結果。



この順序を覚えます。


順序が頭にあれば、次に何を言うかで迷いません。



そして、覚えないものがあります。


理由を説明する文と、つなぎの言葉です。



ですから。


そこで。


一方で。


あとで考えると。



こうした言葉は、話しているうちに出てきます。


覚えておく必要がありません。



理由の文も、覚えません。


覚えるのは、なぜそうしているかという中身だけです。


中身が頭にあれば、文は本番で作れます。



原稿を丸ごと覚えない理由は、ここにあります。


全部を文で覚えると、一語詰まったときに次が出てきません。


文を覚えていると、文を思い出す作業になります。


思い出せなければ止まります。


骨だけ覚えていると、詰まっても別の言い方で続けられます。



もう一つ、効くところがあります。


同じ内容を二度聞かれたときです。


面接の後半で、前の答えと近い質問が来ることがあります。


文を覚えていると、同じ文をもう一度言うことになります。


骨だけ覚えていれば、別の言い方になります。



★文より、場面を覚える



古代の弁論には、覚える対象を場所に結びつける方法がありました。


例えば、建物の部屋を順に思い浮かべて、話の各部分をそれぞれの部屋に結びつけるような方法です。



面接では、場所の代わりに、場面を使います。


第8回で、自分の経験という材料を扱いました。


第14回で、その出来事に意味を与える作業を扱いました。


この材料が、記憶の対象になります。



覚えるのは、場面の細部です。



国語の授業でした。登場人物の気持ちを聞きました。分からなかったと書いた子が十人以上いました。次の時間の初めに、同じところをもう一度扱いました。



この四つを覚えておけば、答えは本番で組めます。


文を覚えていません。


場面を覚えています。


ここは、覚える作業としては軽くなります。


場面は、すでに自分の中にあります。


新しく覚え直す作業ではありません。


思い出せる形に整える作業です。



場面を覚えておくと、質問の形が変わっても使えます。


授業で工夫していることを聞かれたら、この場面から工夫を述べます。


印象に残った子どもを聞かれたら、この場面から一人の子について述べます。


うまくいかなかった経験を聞かれたら、十人以上が分からないまま一時間を終えていたことに、その時間の中では気づけなかったという話を述べます。



一つの場面から、三つの答えが出てきます。


文を三つ覚える必要がありません。



★詰まったときに戻る先



本番で、言葉が出なくなる場面は来ます。


そのときに戻る先を、一つ決めておきます。



戻る先は、場面です。


答えの続きを思い出そうとすると、止まります。


文を探す作業になるからです。


場面に戻ると、続きが出てきます。


あの日、国語の授業で、ノートを見て回った。


ここまで思い出せれば、次の言葉が出てきます。



実際の言い方も、決めておきます。


はい。少し考えます。


この一言をはさんでから、場面に戻ります。


黙って止まるより、こちらのほうが落ち着いて聞こえます。


前置きは短くします。


前の文をもう一度言い直して時間を稼ぐ形は、聞いている側に伝わります。


短く一言はさむほうが、きれいに収まります。



★もう一つの仕事は、蓄えをつくることです



ここから、記憶のもう一つの仕事です。


面接では、用意していない質問が来ます。


想定質問は、ある程度そろえられます。


志望動機、自己アピール、学級経営、授業、保護者対応。


この範囲は予想できます。



ただ、追質問は予想できません。


こちらの答えから、その場で作られます。


第19回で、追質問への対応を扱います。


その技術が働くかどうかは、手元に何があるかで決まります。


蓄えがなければ、その場で考えることになります。


30秒~40秒の語りのあいだに、角度を決め、順番を決め、言葉を選ぶ作業はできません。


蓄えがあれば、選ぶだけで済みます。


そして、答えが良いほど追質問は増えます。


面接官が、もっと聞きたくなるからです。


前半の答えがうまく届いた面接では、後半に追質問が集まります。そこで働くのが蓄えです。


ですから記憶の工程では、答えを覚える作業と並べて、蓄えを作ります。



★何を蓄えるか



蓄えるものを、四つに分けます。



1.自分の出来事



場面を、三つか四つ用意します。第8回で扱った材料です。


出どころを散らします。


授業の場面、学級の場面、保護者とのやりとり、同僚の先生方と動いた場面。


四つとも授業の話にすると、別の質問で同じ場面を繰り返すことになります。



2.自分の意味づけ



第14回で扱った作業です。


一つの出来事に、意味を三つ書き出しておきます。


出来事が四つ、意味が三つずつあれば、十二通りの答えを作れます。


質問に合うものを選ぶだけになります。



3.自分の定義



第16回で作った一行です。


指導とは何か。評価とは何か。


教材研究とは何か。


自分が毎日使ってきた言葉に、自分の定義を与えたものです。


これを三つか四つ持っていると、考えを問う質問にすぐ答えられます。



4.言い直せる事実



志望する自治体の施策の名前と中身。


学習指導要領の語。


いま勤めている学校の取組。


教育に関わる最近の動きも、ここに入ります。



ここで注意が一つあります。言い直せないものを蓄えません。


第15回で、中身を自分の言葉で言えない用語は使わないと説明しました。


蓄えも同じです。名前だけ覚えた施策は、追質問で止まります。


数を増やすより、言い直せるものを三つか四つ持つほうが働きます。



数字を蓄えるときは、出どころを確かめます。


確かめていない数字は、蓄えません。


追質問で聞かれて答えられないと、ほかの話の信用まで落ちます。



そして、名言や引用は蓄えません。


古代の弁論では、有名な一節を蓄えました。


しかし、教員採用試験の面接ではあまり効果的に働きません。


第16回で説明したとおり、格言の形は、誰が言っても同じ文になります。


蓄えるのは、自分の言葉と、確かめられる事実です。



★覚える手順と、蓄える手順



手順を、二つに分けて書きます。


まず、決めた答えを覚える手順です。



1.一字一句で覚えるものに線を引く


原稿を見て、第16回で作った一行、数と固有の言葉、子どもの言葉に線を引きます。


ここだけを覚えます。



2.残りを、短い言葉の並びに書き直す


線を引かなかった部分を、箇条の形にします。


結論の始め方、型の順序、理由の中身、場面の細部。



3.その並びを見ながら、声に出す


毎回、少し違う言い方になります。


それでかまいません。同じ中身が出ていれば足ります。



同じ文を三回続けてそのまま言えたら、覚えすぎています。


箇条の形に戻ります。



次に、蓄えを作る手順です。



1.場面を書き出す


三つか四つ書きます。出どころを散らします。



2.それぞれに意味を三つ書く


一行ずつ書きます。三つ目まで書きます。



3.自分の定義を三つ書く


毎日使ってきた言葉を選んで、定義を書きます。



4.言い直せる事実だけを残す


施策や用語を書き出して、中身を自分の言葉で書けるものだけを残します。


書けないものは消します。



この四つを一枚の紙にまとめておくと、蓄えの全体が見えます。


面接の前に見直すのも、この一枚で足ります。



★まとめ



記憶には、二つの仕事があります。



一つは、決めた答えを覚える仕事です。


一字一句で覚えるのは、第16回で作った一行、数と固有の言葉、子どもの言葉だけです。


結論の始め方と型の順序は、骨だけ覚えます。


理由の文とつなぎの言葉は、覚えません。



文より、場面を覚えます。


場面を覚えておくと、質問の形が変わっても使えます。


詰まったときに戻る先も、場面です。



もう一つは、蓄えをつくる仕事です。


自分の出来事、


自分の意味づけ、


自分の定義、


言い直せる事実。


この四つを蓄えます。



いわゆる名言や引用は蓄えません。


蓄えるのは、自分の言葉と、確かめられる事実です。




河野正夫



 
 
 

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