7.移住覚悟の自治体研究。
- 河野正夫
- 11月21日
- 読了時間: 11分
大学生の教採面接・合格術
7.移住覚悟の自治体研究。
★はじめに
教員採用試験を受験する際、多くの学生が複数の自治体を併願します。
地元の自治体、大学が所在する自治体を第一志望とし、その他にいくつかの自治体を受験するというのが一般的なパターンです。
地元や現在住んでいる自治体であれば、志望動機は自然に語れますし、合格後もその地に定着することに何の問題もありません。
しかし、まったくつながりのない自治体を、いわゆる滑り止めとして受験する場合、状況は大きく変わります。
志望動機の説明は困難になり、さらに重要なのは、合格した後に本当にその自治体で長期間働き続ける覚悟があるかという問題です。
地元や現住所でない自治体を受験する場合には、移住覚悟の自治体研究が必要となります。

★表面的な志望動機の限界
まったくつながりのない自治体を受験する場合、面接では必ず「なぜ本県を志望したのですか」という質問を受けます。
この質問に対して、多くの受験者は「貴自治体の教育施策に共感しました」「この地域は自然が豊かで、子供たちがのびのびと育つ環境があります」といった答えを用意します。
しかし、こうした表面的な志望動機は、面接官にはすぐに見抜かれます。
教育施策への共感を述べても、その施策の具体的な内容や、なぜそれに共感したのか、自分の教育観とどう結びつくのかを深く語れなければ、単に受験案内やウェブサイトを読んだだけだと判断されます。
特に、その施策は他の多くの自治体でも同様に掲げられているものであれば、なおさら説得力を欠きます。
自然が豊かであるという理由も同様です。
日本の多くの自治体、特に地方の自治体は、自然環境の豊かさを特色としています。
「自然が豊か」という理由だけでは、なぜ他の自然豊かな自治体ではなく、その自治体を選んだのかという問いに答えることができません。
面接官は、こうした表面的な志望動機を何度も聞いています。
本当にこの自治体で働きたいと思っている受験者と、単に合格の可能性を広げるために受験している受験者を見分ける目を持っています。
つながりのない自治体を受験する場合、この疑念を払拭することは容易ではありません。
★合格後の定着という課題
志望動機の説明が難しいという問題以上に深刻なのは、合格した後、本当にその自治体で長期間働き続けることができるかという問題です。
教員採用試験の面接では、「あなたは本県で長く働いてくれますか」という趣旨の質問も出されます。
自治体は、採用した教員に長期にわたって働いてもらいたいと考えています。
教員の育成には時間とコストがかかります。採用後の初任者研修、数年間にわたる育成、経験を積んでようやく一人前の教員として学校運営を担える存在になります。
それなのに、数年で退職されたり、他の自治体に移られたりすることは、自治体にとって大きな損失です。
まったくつながりのない自治体で合格した場合、その地で生活の基盤を築くことができるでしょうか。
友人も知人もいない土地で、孤独に生活を始めることになります。
地元の家族や友人と離れ、慣れない環境で教員としての激務をこなすことは、想像以上に困難です。
最初の数年は新鮮さや緊張感で乗り切れるかもしれませんが、時間が経つにつれて、地元への思いが強くなることもあります。
★安易な助言の危険性
こうした課題に対して、無責任な指導者の中には「まずはどこかの自治体で合格して正規教員になり、数年後に現職枠で地元に帰ればいい」と助言する人もいます。
確かに、多くの自治体では、現職教員を対象とした採用枠を設けています。
他の自治体で教員として働いている人が、自分の地元に戻りたいと考えた場合、この現職枠を利用することができます。
しかし、現職枠での合格は決して容易ではありません。
現職枠は一般の新卒枠に比べて募集人数が少なく、競争率は高い傾向にあります。
また、現職者としての実績や指導力が厳しく評価されます。
数年間の教員経験があるからといって、自動的に合格できるわけではありません。
実際に、現職枠で毎年受験し続けているにもかかわらず、何年も不合格が続いている人は少なくありません。
その間、本当は地元に帰りたいと思いながら、別の自治体で働き続けることになります。
仕事に対するモチベーションは下がり、生活の満足度も低くなります。
こうした状態は、本人にとっても不幸ですし、子供たちにとっても望ましくありません。
さらに、現職として他の自治体で働いている間に、生活の基盤がその自治体に定着してしまうこともあります。
結婚し、家族ができ、住宅を購入し、子供が学校に通い始めると、地元に帰ることはさらに困難になります。
「数年後に地元に帰る」という計画は、必ずしも実現するとは限りません。
★移住覚悟とは何か
地元や現住所でない自治体を受験する場合に必要なのは、移住覚悟の自治体研究です。
移住覚悟とは、その自治体に少なくとも五年から十年以上、場合によっては半永久的に住み続ける覚悟を持つということです。
数年間だけ働いて、それから地元に帰るという中途半端な気持ちで受験することは可能です。
しかし、そうした気持ちは面接で必ず伝わります。
面接官は、あなたが本当にこの自治体で働き続ける意思があるのかを見極めようとします。
曖昧な姿勢では、合格は至難の業となります。
移住覚悟を持つということは、その自治体を自分の生活の場として受け入れるということです。
単に勤務地として捉えるのではなく、自分が長期間住み、生活し、場合によっては家族を持ち、子供を育てる場所として考えるということです。
この覚悟があって初めて、自治体研究は深みを持ち、志望動機は説得力を持ちます。
★深い自治体研究の必要性
移住覚悟を持つためには、その自治体について表面的な知識ではなく、深い理解が必要です。
教育施策だけでなく、その自治体の歴史、文化、産業、人口構成、地域の課題、将来のビジョンなど、多角的に理解する必要があります。
まず、その自治体の教育施策を詳しく調べます。
教育振興基本計画、教育委員会の重点施策、学校教育の現状と課題。
これらの資料を読み込み、その自治体が教育において何を大切にしているのか、どのような方向を目指しているのかを理解します。
ただし、これだけでは不十分です。
なぜその施策が必要なのか、その背景にある地域の課題は何なのかまで踏み込んで考える必要があります。
次に、その自治体の地域特性を理解します。
人口の増減傾向、高齢化の進行度、産業構造、雇用状況。これらは、学校教育のあり方に直接影響します。
人口減少が進む地域では、学校の統廃合が課題となっているかもしれません。
産業構造の変化は、子供たちのキャリア教育に影響します。
こうした地域の実態を理解することで、その自治体の教育が直面している現実的な課題が見えてきます。
さらに、その自治体の文化や歴史も重要です。
地域には独自の伝統や文化があり、それは学校教育にも反映されています。
地域の祭りや行事に学校がどのように関わっているのか、地域の歴史をどのように教育に活かしているのか。
こうした点を理解することで、その自治体の教育の特色が見えてきます。
★実際に足を運ぶ
自治体研究は、インターネットや資料だけでは不十分です。
実際にその自治体を訪れることが重要です。
可能であれば、複数回訪問し、様々な場所を見て、その土地の雰囲気を感じることが必要です。
自治体の中心部だけでなく、郊外や農村部も訪れます。
学校の周辺を歩き、子供たちがどのような環境で生活しているのかを観察します。
地域の図書館や公民館、商店街を訪れ、地域の人々の暮らしを感じます。
可能であれば、地域の人と話をし、その土地の良さや課題について聞いてみることも有効です。
また、その自治体の学校を実際に見学できれば理想的です。
学校公開日や学校行事に参加することで、その自治体の教育の実際を肌で感じることができます。
教育委員会に問い合わせて、学校見学の機会を得られる場合もあります。
こうした実際の訪問を通じて、その自治体が自分にとって住みやすい場所なのか、長期間生活できる場所なのかを判断します。
移住覚悟を持つためには、頭で理解するだけでなく、身体で感じることが必要です。
★生活の具体的なイメージ
移住覚悟を持つということは、その自治体での生活を具体的にイメージできるということです。
どこに住むのか、通勤手段は何か、日常の買い物はどこでするのか、休日はどのように過ごすのか。
こうした日常生活の具体的なイメージを持つことが重要です。
住居については、賃貸物件の相場を調べ、どのような地域に住むのが現実的かを考えます。
通勤時間や交通手段も確認します。
車が必要な地域なのか、公共交通機関で十分なのか。
生活費はどの程度かかるのか。
こうした現実的な情報を集めることで、その自治体での生活が自分にとって可能なのかを判断できます。
また、その自治体での人間関係の構築も考える必要があります。
知人も友人もいない土地で、どのようにコミュニティに入っていくのか。
地域の活動に参加する機会はあるのか。孤独にならずに生活できる環境があるのか。
こうした点も、長期間住み続ける上では重要な要素です。
★志望動機の深化
移住覚悟を持ち、深い自治体研究を行った結果、志望動機は自然に深まります。
表面的な教育施策への共感ではなく、その自治体の地域特性、抱える課題、将来のビジョンを理解した上で、自分がどのように貢献できるのかを具体的に語ることができます。
例えば、人口減少が進む地方の自治体を受験する場合、
「この自治体は人口減少と高齢化が進んでいますが、それは地域の課題である一方、少人数だからこそできる丁寧な教育の可能性もあります。私は、一人一人の子供に向き合う教育を実践したいと考えており、この環境は自分の教育観と合致します。また、地域との結びつきが強い学校教育のあり方に魅力を感じます」
といった具体的で説得力のある志望動機を語ることができます。
これは単なる表面的な理由ではなく、その自治体の実態を深く理解し、そこで長期間働き、生活することを前提とした上での志望動機です。
面接官は、こうした深い理解と覚悟を持った受験者を高く評価します。
★面接での説得力
移住覚悟を持ち、深い自治体研究を行った受験者は、面接での受け答えが明確に異なります。
「なぜ本県を志望したのですか」という質問に対して、一般論ではなく、その自治体の具体的な特徴を踏まえた答えができます。
「本市で長く働いてくれますか」という質問に対しても、曖昧な返答ではなく、実際にその土地を訪れ、生活をイメージした上での明確な意思を示すことができます。
また、面接の中で、その自治体の教育課題について問われた場合にも、表面的な知識ではなく、地域の実態を踏まえた深い理解を示すことができます。
「この地域の子供たちにどのような力をつけたいですか」という質問に対しても、その自治体の産業構造や将来像を踏まえた具体的な答えができます。
こうした深い理解と明確な意思は、面接官に強い印象を与えます。
数多くの受験者の中で、本当にこの自治体で働きたいと考えている人材として記憶に残ります。
★覚悟のない受験のリスク
逆に、移住覚悟を持たず、単に合格の可能性を広げるために受験した場合、様々なリスクがあります。
まず、面接での説得力を欠き、合格が困難になります。
仮に合格したとしても、実際にその自治体で生活を始めてから、想像以上の困難に直面する可能性があります。
地元への思いが強くなり、仕事へのモチベーションが下がります。
早期に退職したり、現職枠での受験を続けたりすることになり、本人にとっても自治体にとっても不幸な結果となります。
教員という仕事は、地域と深く結びついています。
その地域の子供たちを育て、保護者や地域住民と関わり、地域の教育を担う存在です。
その土地に愛着を持てず、いつか離れることを前提に働いている教員は、本当の意味で地域の教育に貢献することはできません。
★結論
地元や現住所でない自治体を受験する場合には、移住覚悟の自治体研究が必要です。
表面的な志望動機では面接官に見抜かれますし、仮に合格しても、その後の定着が困難になります。
数年働いてから地元に帰るという安易な計画は、必ずしも実現するとは限りません。
移住覚悟とは、その自治体に少なくとも五年から十年以上、場合によっては半永久的に住み続ける覚悟を持つということです。
そのためには、その自治体について深く研究し、実際に足を運び、生活を具体的にイメージする必要があります。
こうした覚悟と深い理解を持って受験することで、志望動機は自然に説得力を持ち、面接での評価も高まります。
そして、合格後も、その自治体で充実した教員生活を送ることができます。
もし、ある自治体について深く研究した結果、そこで長期間生活することに不安や抵抗を感じるのであれば、その自治体の受験は見送るべきです。
受験できる自治体の数を増やすことよりも、本当に働きたいと思える自治体に絞って受験する方が、結果として合格の可能性も高まります。
移住覚悟の自治体研究は、表面的な受験対策ではなく、自分の人生の方向性を決める重要な作業です。
この作業を丁寧に行うことが、教員としてのキャリアの充実した出発点となります。
河野正夫

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