6.教育実習のストーリー化。 大学生の教採面接・合格術
- 河野正夫
- 2025年11月19日
- 読了時間: 13分
大学生の教採面接・合格術
6.教育実習のストーリー化。
★はじめに
教育実習を終えた多くの学生は、「充実していた」「大変だった」「勉強になった」という漠然とした印象を、まず持ちます。
確かに、二週間から三週間という期間の中で、授業、子供たちとの関わり、指導教員からの助言、失敗、成功など、様々な出来事があるでしょう。
しかし、それらは断片的な記憶として頭の中に散らばっているだけで、一つのまとまった意味を持っていません。
教育実習のストーリー化とは、こうした断片的で漠然とした記憶や印象を、自分の頭の中で再構成し、自分にとっての意味や意義を捉え直す作業です。
この作業があって初めて、面接で使える具体的で説得力のあるエピソードを抽出することができます。

★断片的な記憶の問題
教育実習中は、毎日が新しい経験の連続です。
朝、学校に到着してから帰るまで、次々と出来事が起こります。
授業の準備、授業の実施、子供たちとの休み時間の関わり、給食指導、清掃指導、放課後の振り返り、指導教員との面談。
一つ一つの場面が記憶に残りますが、それらはバラバラの断片として存在しています。
実習が終わった直後、学生は「たくさんのことを経験した」という実感はあります。
しかし、「あなたは教育実習で何を学びましたか」と問われたとき、多くの学生は答えに窮します。
「授業の難しさを知りました」「子供たちとの関わり方を学びました」といった一般的な答えしか出てきません。
なぜなら、個々の経験が自分の中で整理されておらず、それらが全体として何を意味しているのかが明確になっていないからです。
★ストーリー化とは何か
ストーリー化とは、散らばった記憶の断片を、一つの筋の通った物語として再構成する作業です。
ただし、これは面接で語るための物語を作るという意味ではありません。
自分自身が、自分の経験を深く理解するための内的な作業です。
物語には、始まりがあり、展開があり、転機があり、結末があります。
主人公が何かを経験し、困難に直面し、それを乗り越えようとし、その過程で変化していく。
この構造を使って、自分の教育実習を捉え直します。
例えば、実習の最初の日、あなたは緊張と期待を持って学校に入りました。
これが始まりです。
最初の授業では、準備した通りに進まず、戸惑いました。
子供たちの反応は予想と違い、時間配分もうまくいきませんでした。
これが直面した困難です。
指導教員から助言を受け、自分なりに工夫を重ねました。
これが対処の過程です。
実習の終盤には、子供たちとの関係も深まり、授業の進め方にも少し自信が持てるようになりました。
これが変化です。
そして、実習全体を通じて、教員という仕事の奥深さと、自分の課題を認識しました。
これが学びです。
このように、バラバラの出来事を時間軸に沿って並べ、それぞれの出来事の因果関係や意味を考えながら、一つの流れとして再構成します。
これがストーリー化の第一段階です。
★意味の発見
ストーリー化の本質は、単に出来事を時系列に並べることではありません。
それらの出来事が、自分にとって何を意味していたのかを発見することです。
例えば、授業で失敗したという出来事があったとします。
これだけでは、単なる失敗の記憶です。
しかし、この失敗を振り返り、なぜ失敗したのか、その時自分は何を感じたのか、その後どのように考え直したのかを丁寧に辿っていくと、そこに意味が見えてきます。
「準備した内容が多すぎて、時間内に終わらなかった」という失敗の表面的な理由だけでなく、「子供たちの理解度を確認せずに進めてしまった」「教員が教えることに集中しすぎて、子供たちが学ぶことを忘れていた」という深い気づきが生まれます。
さらに、「指導教員から、授業は教員のためではなく、子供たちのためにあると言われ、視点が変わった」という転機を経て、「その後の授業では、子供たちの表情を見ながら進めるようになった」という変化につながります。
この一連の流れを辿ることで、「授業で失敗した」という単なる出来事が、「教員中心の授業から子供中心の授業への視点転換」という自分にとっての重要な学びの物語に変わります。
これが意味の発見です。
★複数の軸でのストーリー化
教育実習は多面的な経験です。
授業づくり、子供との関係づくり、学級経営の観察、指導教員からの学び、同僚教員との協働など、様々な側面があります。
ストーリー化は、一つの軸だけで行う必要はありません。
複数の軸で、それぞれストーリーを構成することができます。
授業づくりの軸では、「最初は教科書通りに教えることに必死だった自分が、子供たちの反応を見ながら柔軟に対応できるようになるまで」という成長の物語を描けます。
子供との関係づくりの軸では、「最初は距離を感じていた子供たちと、どのように信頼関係を築いていったか」という物語を描けます。
学級経営の軸では、「担任の先生が、どのように子供たち一人一人に配慮しながらクラスをまとめているかを観察し、学級経営の奥深さを知った」という発見の物語を描けます。
これらの複数の物語が、全体として、「教員という仕事の多面性と、自分がこれから学ぶべき方向性」という大きなテーマに収束していきます。
★省察の深化
ストーリー化は、省察を深化させる作業でもあります。
省察とは、自分の経験を振り返り、そこから学びを引き出すことです。
単に「こんなことがあった」と思い出すのではなく、「なぜそうなったのか」「その時自分は何を感じたのか」「他にどのような対応があり得たのか」「この経験から何を学んだのか」と深く考えることです。
例えば、ある子供が授業中に集中できず、周りの子供たちの邪魔をしていたという場面があったとします。
表面的には「困った行動をする子供がいた」という記憶です。
しかし、これを深く省察します。
なぜその子供は集中できなかったのか。
授業の内容が理解できなかったのか、他に気になることがあったのか、体調が悪かったのか。
自分はその時、どう対応したのか。
注意しただけだったのか、その子供の気持ちを理解しようとしたのか。
担任の先生はどう対応していたのか。その対応から何を学んだのか。
こうした問いを自分に投げかけながら、一つの出来事を多角的に捉え直します。
すると、「困った行動をする子供がいた」という単純な記憶が、「子供の行動の背景を理解することの重要性」「表面的な対応ではなく、根本的な原因に目を向ける必要性」という深い学びに変わります。
ストーリー化の過程で、このような省察を繰り返すことで、教育実習の経験は単なる過去の出来事ではなく、自分の教育観を形成する重要な基盤となります。
★感情の整理
教育実習中は、様々な感情を経験します。
期待、不安、喜び、失望、達成感、無力感。これらの感情も、ストーリー化の重要な要素です。
多くの学生は、実習中の感情を十分に振り返ることなく、時間が経つと忘れてしまいます。
しかし、その時感じた感情は、あなたの価値観や、教員としての適性を示す重要な手がかりです。
例えば、授業がうまくいかなかったとき、あなたは何を感じましたか。
悔しさですか、申し訳なさですか、それとも無力感ですか。
その感情は、あなたが何を大切にしているかを示しています。
子供たちに理解させたいという思いが強ければ悔しさを感じるでしょうし、子供たちに申し訳ないという思いが強ければ罪悪感を感じるでしょう。
また、授業がうまくいったとき、子供たちが「わかった」と言ってくれたとき、実習最終日に子供たちから手紙をもらったとき。
あなたは何を感じましたか。
その喜びの感情は、なぜ生まれたのですか。
子供たちの成長を見ることに喜びを感じるのか、自分の努力が報われたことに喜びを感じるのか。
ストーリー化の過程で、こうした感情を丁寧に振り返り、言語化することで、自分が教員という仕事に何を求めているのか、どのような教員になりたいのかが明確になります。
★他者の視点の統合
教育実習では、指導教員からの助言、子供たちの反応、他の実習生の様子など、様々な他者の視点に触れます。
ストーリー化では、これらの他者の視点を自分のストーリーに統合します。
指導教員の助言は、あなたの成長の転機となったはずです。
その助言を受けた瞬間、あなたの考え方や行動がどう変わったのか。
具体的な助言の内容と、それを受けてのあなたの変化を結びつけることで、学びの瞬間が明確になります。
子供たちの反応も重要です。
ある授業での子供たちの表情、ある言葉かけに対する子供の返答、休み時間に子供がかけてくれた言葉。
これらは、あなたの行動が子供たちにどのような影響を与えたかを示す証拠です。
ストーリーの中にこれらの反応を位置づけることで、自分の成長を客観的に捉えることができます。
他の実習生の様子を観察したことも、学びの材料です。
他の実習生がうまく対応していた場面、逆に苦労していた場面。
それらを見て、自分は何を感じ、何を学んだのか。
他者との比較を通じて、自分の強みと課題が見えてきます。
★エピソードの抽出
ストーリー化の作業を丁寧に行った結果、あなたの教育実習は、いくつかの明確なテーマを持った物語として整理されます。
「授業づくりにおける子供中心の視点への転換」「困難を抱える子供との信頼関係の構築」「学級経営における細やかな配慮の発見」など、それぞれの物語が、あなたの学びを象徴しています。
ここで初めて、面接で使えるエピソードを抽出する段階に入ります。
ストーリー全体を面接で語る時間はありません。
面接での回答は45秒程度です。
その短い時間の中で、結論を述べ、エピソードを挿入し、学びを示す必要があります。
しかし、ストーリー化によって自分の経験を深く理解しているからこそ、その中から核心的な一場面を抽出し、短く語ることができます。
例えば、「授業づくりにおける子供中心の視点への転換」という大きな物語から、「指導教員から『子供たちの表情を見ていますか』と問われた瞬間」という一場面を抽出します。
面接での回答例を示します。
「教育実習で最も印象に残っているのは、指導教員から『子供たちの表情を見ていますか』と問われた瞬間です。それまで私は、準備した内容を教えることに必死で、子供たちの理解度を確認していませんでした。この言葉をきっかけに、授業中に子供たちの表情や反応を見る習慣がつき、理解が不十分な部分では立ち止まって説明し直すようになりました。この経験から、授業は教員が教えるものではなく、子供たちが学ぶものだという視点を持つことができました」
この回答は45秒程度です。
しかし、この短い回答の背景には、授業での失敗、悩み、指導教員との対話、改善の試み、子供たちの変化という長いストーリーがあります。
ストーリー化によって自分の経験を深く理解しているからこそ、その核心を短く、的確に語ることができます。
★ストーリー化の実践方法
では、具体的にどのようにストーリー化を進めればよいのでしょうか。
まず、教育実習中に記録をつけることが重要です。
大学に提出する実習日誌とは別に、自分のための記録をつけます。
その日の出来事、感じたこと、気づいたこと、疑問に思ったことを、できるだけ具体的に書き留めます。
時間が経つと記憶は薄れますから、実習期間中、できれば毎日記録することが望ましいです。
実習が終わったら、その記録を読み返します。
一つ一つの出来事を思い出しながら、それらがどのようにつながっているかを考えます。
最初はバラバラに見えた出来事が、実は因果関係を持っていたことに気づくこともあります。
次に、実習全体を通じて、自分が最も変化したと感じる点は何かを考えます。
授業の進め方ですか、子供への接し方ですか、教員という仕事の理解ですか。その変化を軸に、ストーリーを組み立てていきます。
変化の起点となった出来事は何だったのか。
どのような困難や課題に直面したのか。
それに対してどう対処しようとしたのか。
その過程で、誰の助言や、どのような経験が転機となったのか。
結果として、自分はどう変わったのか。この経験から、何を学んだのか。
これらの問いに答えながら、時間軸に沿って、あるいはテーマごとに、自分の経験を整理していきます。
文章に書いてもよいですし、図や表にまとめてもよいでしょう。
重要なのは、バラバラの記憶が、一つのまとまった意味を持つ物語として自分の中に定着することです。
この作業には時間がかかります。
一度で完成するものではありません。
何度も読み返し、考え直し、新しい気づきを加えながら、少しずつストーリーを磨いていきます。
★ストーリー化がもたらすもの
ストーリー化は、面接対策のためだけの作業ではありません。
この作業を通じて、あなたは自分の経験を深く理解し、自分の教育観を明確にすることができます。
漠然と「教育実習は勉強になった」と思っているだけでは、その経験は十分に活かされません。
しかし、ストーリー化によって、自分が何を学んだのか、どのような課題を抱えているのか、今後どの方向に成長すべきなのかが明確になります。
また、ストーリー化された経験は、記憶に定着しやすくなります。
バラバラの断片的な記憶は時間とともに忘れてしまいますが、一つの筋の通った物語として整理された記憶は、長期間にわたって保持されます。
面接の場だけでなく、教員になった後も、この経験は重要な指針となります。
さらに、ストーリー化の作業自体が、省察的実践家としての基礎を築きます。
教員は、日々の実践を振り返り、そこから学び続ける存在です。
教育実習という限られた経験を深く省察する訓練は、教員になってからの省察的実践の習慣につながります。
★面接での活用
ストーリー化された教育実習は、面接での様々な質問に対応する基盤となります。
「あなたの強みは何ですか」という質問には、ストーリーの中で発揮された自分の強みを、具体的なエピソードとともに語ることができます。
「困難をどう乗り越えますか」という質問には、ストーリーの中の困難な場面と、それへの対処を示すことができます。
「あなたの教育観を述べてください」という質問には、ストーリー全体から得られた学びを、教育観として語ることができます。
「子供たちとどのように関わりますか」という質問には、ストーリーの中の子供との関わりの場面を示すことができます。
いずれの質問に対しても、45秒程度という限られた時間の中で、ストーリーから抽出した核心的なエピソードを効果的に挿入しながら、簡潔に答えることができます。
ストーリー全体を語る必要はありません。
しかし、その背後に確固としたストーリーがあるからこそ、短い回答にも説得力と深みが生まれます。
★結論
教育実習のストーリー化とは、断片的で漠然とした記憶や印象を、自分の頭の中で再構成し、自分にとっての意味や意義を捉え直す作業です。
これは面接で語るための準備ではなく、自分自身が自分の経験を深く理解するための内的な作業です。
時間軸に沿って出来事を整理し、それぞれの因果関係や意味を考えます。
複数の軸で物語を構成し、省察を深化させ、感情を整理し、他者の視点を統合します。
この作業を通じて、教育実習という経験は、単なる過去の出来事から、あなたの教育観を形成する重要な基盤へと変わります。
そして、このストーリー化があって初めて、面接で使える具体的で説得力のあるエピソードを抽出することができます。
45秒という短い回答の中に、核心的な一場面を効果的に挿入し、自分の学びを明確に示すことができます。
ストーリー化は時間のかかる作業ですが、この作業を丁寧に行うことで、あなたの教育実習は、単なる経験から、あなたという教員の基礎を形成する貴重な財産へと昇華します。
それが、面接での説得力となり、合格への確かな道となります。
河野正夫


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