第9回:生徒指導観を問われたとき。対応力と教育的信念の統合を目指す。
- 河野正夫
- 2025年6月15日
- 読了時間: 5分
【1倍程度の低倍率で落ちないために】(連載全20回)
第9回
生徒指導観を問われたとき。
対応力と教育的信念の統合を目指す。
教員採用面接において、「生徒指導」についての質問は極めて頻出であり、かつ合否に直結する重要なテーマです。
たとえば「問題行動を起こす生徒への対応をどう考えますか」「叱ることについてどう思いますか」「トラブルがあった際にどう対処しますか」といった形で、多様な切り口から問われるこの領域は、単なる知識やスローガンではなく、受験者の教育的信念・価値観・判断力そのものが試される場面でもあります。
特に近年の教育現場では、「ほめる・しかる」といった二項対立的枠組みを超えて、個別的・状況的な対応が求められています。
そのなかで、受験者が語るべきは、厳しさと温かさ、指導と対話、秩序と信頼のあいだでいかにバランスを取りながら教育的に介入しようとしているかという「統合的視点」です。
本稿ではまず、生徒指導観が評価対象となる構造を明らかにしたうえで、典型的な語りの落とし穴とその修正ポイントを整理します。
続いて、指導方針の言語化と「ほめる・しかる」の二項対立的ではない、新しい時代の教育の語りの設計法を提案し、信念と対応力が調和した語りの構築法を具体的に示します。

1. 面接官が「生徒指導観」から見ているもの
生徒指導についての語りを通して、面接官は主に次のような観点から受験者を評価しています。
(1)教育的信念の有無と一貫性
自分なりの生徒理解や教育観があり、それが具体的な指導の判断基準として機能しているかが問われます。
「なぜそうするのか」「その指導の背景にはどのような考え方があるのか」といった哲学的土台の有無が見られます。
(2)多様性への対応力
生徒は一様ではありません。
多様な背景・特性・課題を抱える生徒一人ひとりに応じた柔軟な対応をとれるか、画一的でない視点を持っているかが評価されます。
(3)感情の自己調整と冷静な対応
叱責や緊急対応が求められる場面でも、感情的にならず冷静に対応できる人物かどうかが、語りの内容・口調・論理性から読み取られます。
2. よくある失敗例とその構造的問題
以下は面接でよく見られる、生徒指導観の語りに関する代表的な失敗例です。
(1)理念だけで現場感がない
「子どもを頭ごなしに叱らず、気持ちに寄り添うことが大切だと思います。」
一見すると共感的で良い語りに見えますが、「具体的にどんな行動を取るのか」「現場でどう機能するのか」が語られていないため、実践性が乏しい印象を与えます。
(2)極端な立場への偏り
「ルールを守らなかったら厳しく指導するべきです。」
あるいはその逆に、
「叱るのではなく、まず話を聞くべきです。」
といった語りも、どちらか一方に寄りすぎると柔軟性に欠け、実際の教育現場での対応力に不安を持たせます。
(3)自分の思いだけに終始する
「私は中学生のときの担任に救われたので、私もそんな教師になりたいと思います。」
個人的な動機としては好印象ですが、「ではそのために何をどうするのか」が明示されていなければ、再現性のある教育観としては成立しません。
3. 指導観を語るための構成モデル
説得力のある生徒指導観は、次のような構成に基づいて語ることで、信念と対応力の統合を実現できます。
(1)教育的立場の明示(信念)
例:
「私は、生徒指導の本質は、規律の強化ではなく信頼関係の構築にあると考えています。」
このように、自分なりの立場や指針を一文で明示することが重要です。
(2)経験や状況の具体化(実践)
例:
「講師として勤務していた際、ルールを守らない生徒に対して頭ごなしに注意せず、まず事情を聞いたうえで、他の生徒への影響も含めて丁寧に説明することで理解を得ました。」
ここでは、信念が単なる理念ではなく、実際の判断行動として機能していることを示す必要があります。
(3)対応の幅の提示(柔軟性)
例:
「もちろん、他者の安全や集団秩序が損なわれる場合には、毅然とした態度で指導することも必要です。」
このように、状況に応じた対応のバリエーションを語ることで、現場対応力の高さが伝わります。
(4)生徒観・成長観と結びつける
例:
「どの生徒にも必ず成長の可能性があり、失敗をきっかけに変わっていくと信じて関わっています。」
教育的な希望を含んだ語りで締めくくることで、信念と現実的対応の統合がより明確になります。
4. 「ほめる・しかる」の軸をどう語るか
近年では、「叱ること」が必要か否かという二項対立を超えて、「叱ることも支えることの一環である」という統合的視点が求められています。たとえば次のような語りが有効です。
「私は、叱るという行為もまた、生徒を大切に思うからこその関わりであると考えています。大切なのは、感情的ではなく、行動と責任を分けて伝えること。そして、叱ったあとに必ず声をかけて気持ちを聞き、関係を修復することも含めて指導だと考えています。」
このように、「叱る」「ほめる」を対立的に捉えるのではなく、教育的意図として一貫性を持たせた語りが高く評価されます。
おわりに:
教育的信念を“語れる形”にまで昇華させる
生徒指導について問われるとき、面接官が見ているのは、マニュアル的な対応策ではなく、「この人が教育的判断をどのように行うのか」「その判断にどんな信念と経験が裏打ちされているのか」です。
すなわち、価値観と実践の一貫性があり、かつ柔軟に適応できる人物かどうかが試されています。
受験者は、自身の経験や信念を単なる思い出や理念として語るのではなく、それを「判断基準としての言語」にまで昇華させて語る必要があります。
教育的信念は、語る力によって他者に伝わり、評価され、そして共に働く姿が想像されるのです。
次回、第10回では、「保護者対応への備え、信頼される教員像の言語化」をテーマに、教育現場で最も問われる“対大人対応力”の戦略について検討していきます。
引き続きご期待ください。
河野正夫



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