第9回:フレーミング 問いの枠を読み、枠を置き直す。【面接で満点合格を目指すためのレトリック理論講座】(20回連載シリーズ)
【面接で満点合格を目指すためのレトリック理論講座】(20回連載シリーズ)
第9回:フレーミング 問いの枠を読み、枠を置き直す
★問いには、言葉のほかに枠が付いてきます
面接室で、こう聞かれたとします。
厳しい先生と優しい先生、子どもにとっては、どちらが良い先生だと思いますか。
多くの場合、答えはこう始まります。
どちらも大切だと思います。ただ、私はまず子どもとの信頼関係を作りたいので、優しさのほうを大事にしたいと考えています。
この答えには、おかしなところが一つもありません。筋は通っています。
ただ、この受験者は、自分が思っていないことを述べ始めています。
教室の中で、厳しさと優しさは反対の方向にありません。
宿題を三日続けて出していない子に、放課後に声をかける。
この行為は、厳しさのようにも見えますし、優しさのようにも見えます。
実際にやっているのは、その子を放っておかない、という一つのことです。
厳しさと優しさを反対の方向に置いたのは、受験者ではありません。問いです。
問いには、言葉のほかに、枠が付いてきます。
枠とは、その問いが前提にしている世界の形です。
いまの問いの枠は、厳しさと優しさが線の両端にある、という形をしています。
枠に乗ったまま答えると、答えの中身がどれだけ良くても、乗った枠からは出られません。
線の上のどこかに自分を置く作業になります。
もう一つ、別の問いを見てみます。
保護者からの理不尽な要求には、どのように対応しますか。
この問いの枠は、その要求が理不尽である、と先に決めています。
枠に乗って答えれば、理不尽な保護者をどう処理するかという話になります。
保護者が何を心配してその電話をかけてきたのかは、答えの中に入ってきません。
枠を読むというのは、答える前に、この形に気づくことです。

★発想は自分を見る工程、フレーミングは問いを見る工程
前回、発想(インベンション)を扱いました。
自分の手元にある材料の、どこから見るかを決める工程です。
今回のフレーミングは、相手が出した問いを、どう読むかという工程です。
レトリックの五つの工程、発想・構成・修辞・記憶・演出のうち、どちらも最初の工程に入ります。
ただ、カメラの向きが逆です。
発想のカメラは自分に向きます。
フレーミングのカメラは問いに向きます。
そして、働く順番があります。
準備の段階では、発想が先です。
自分の材料を出し、角度を決めておきます。
ところが本番では、順番が入れ替わります。
面接室では、問いが先に来ます。
問いを聞いて、その枠を読み、枠に合う角度を自分の手持ちから選びます。
ですから、準備で角度を五本持っていた人は、本番で選べます。
一本しか持っていない人は、枠が合わなくても、その一本を出すことになります。
前回の工程と今回の工程は、この一点でつながっています。
★枠は、面接官が設計したものではありません
ここが、この回でいちばん大事なところです。
問いに付いてくる枠を読み直すことは、面接官に逆らうことになるのでしょうか。
なりません。理
由は、この試験の作りの中にあります。
面接官は二人から三人です。
学校の管理職の方、教育委員会の指導主事やセンター長、人事課の中間管理職の方。自治体によっては民間の方が入ります。
この方々は、採用人事の専門家ではありません。
多くは、夏の数日間の充て職です。
学校を動かすことや、指導の中身については深く知っておられますが、面接の設計を仕事にしてきた方ではありません。
そして、一つ一つの質問に、緻密な意図は込められていません。
質問票の評価項目も、分類として並んでいるだけで、指標として働いてはいません。
この試験では、構造化面接の手法が取られていません。
では、厳しい先生と優しい先生という枠は、どこから来たのか。
質問票の分類と、これまでの慣習から来ています。
誰かが、厳しさと優しさは対立するものだと本気で考えて、その対立を測るために問いを設計した、という経緯はありません。
昔から面接で使われてきた形が、紙に残っているだけです。
面接官は、その紙を読んでいます。
ですから、枠には持ち主がいません。
持ち主のいない枠を置き直しても、誰の設計も壊れません。
むしろ、面接官が助かる場合があります。
自分でも答えにくいと思っている問いに、答えやすい形が与えられるからです。
民間企業の面接では、話が違ってきます。
質問と評価の尺度を対応させて設計している面接では、枠を外した答えは採点できません。
そこで枠を動かすのは危ない手です。
この試験では、枠を読み直す余地が広く開いています。
教員採用試験の面接で、この技法が安全に使える理由は、ここにあります。
★枠を読む 四つの型
実際に出てくる枠を、四つの型に分けます。型ごとに、対処の仕方が違います。
1.二者択一の枠
二つのものが、線の両端に置かれています。
厳しい先生と優しい先生、どちらが良い先生だと思いますか。
集団の力を育てることと、一人一人を伸ばすこと、どちらを大切にしますか。
叱ることと褒めること、どちらを多くしますか。
見分け方は簡単です。
問いの中に、二つのものが反対の方向に置かれていたら、この型です。
そして、確かめることが一つあります。
その二つは、教室の中で本当に反対の方向にあるのか。
たいていの場合、反対にはありません。
集団の力は、一人一人が動いた結果として育ちます。
線の両端に置けるものではありません。
2.前提の入った枠
問いの中に、まだ確かめていない判断が入っています。
保護者からの理不尽な要求には、どのように対応しますか。
最近の子どもは我慢ができないと言われますが、どう思いますか。
授業についてこられない子には、どのような支援をしますか。
三つ目は、気づきにくい型です。
ついてこられない、という言葉が、授業の側は動かないという前提を入れています。
見分け方は、問いの中の形容詞と動詞を見ることです。
理不尽な。
できない。
ついてこられない。
判断を含んだ言葉が入っていたら、この型です。
3.範囲を限定する枠
答えの置き場所が、先に決められています。
学級経営で工夫していることを、一つ挙げてください。
授業の中で、言語活動をどのように取り入れますか。
担任として、最初の一週間で何をしますか。
一つ。
授業の中で。
担任として。
最初の一週間で。
これらが範囲の枠です。
この型は、ほかの三つと扱いが違います。
あとで詳しく述べますが、範囲の枠は、ほとんど動かしません。
4.主語を限定する枠
答えの主語が、一人になっています。
あなたはどうしますか。
担任として、どう対応しますか。
学校の中で一人で動く仕事は、ほとんどありません。
ただ、主語を学校の側に寄せすぎると、自分がやることが消えます。
この型は、少しだけ動かします。
★枠の中で答える場合と、置き直す場合
四つの型を読めるようになったら、次は、動かすかどうかの判断です。
基準は一つだけです。
枠の中で答えて、自分が本当に思っていることが言えるかどうか。
言えるなら、枠の中で答えます。
枠に触る必要がありません。
言えないなら、置き直します。
自分が思っていないことを三十秒話すのは、面接の中でいちばん損な時間の使い方になります。
型ごとの傾向を述べます。
二者択一の枠と、前提の入った枠は、置き直す価値が高くなります。
どちらも、自分が思っていないことを言わせる形をしているからです。
範囲を限定する枠は、ほとんど置き直しません。
一つ挙げてくださいと言われたら、一つ挙げます。
この枠は、面接官が時間を管理するために置いています。
面接は二十分から三十分で、聞きたい項目は決まっています。
範囲の枠を外した答えは、長い答えになります。
話が長い人という評価は、取り返しが難しくなります。
主語の枠は、少しだけ動かします。
やり方は次の節で述べます。
もう一つ、回数の話があります。
枠の置き直しは、一回の面接で一度か二度にします。
毎回やると、問いをそのまま受け取らない人として伝わります。
面接官の側から見ると、こちらの聞いたことに素直に答えてくれない、という感じになります。
置き直すのは、自分の芯に関わる問いが来たときだけです。
それ以外は、枠の中で気持ちよく答えます。
★枠の置き直し方
手順は三つです。
1.枠を言葉にします。
頭の中で一瞬でやります。
この問いは、何と何を対にしているか。
何を決めてかかっているか。
2.自分が本当に思っている形を、一文にします。
3.その一文を、問いへの入口に置きます。
ここで大事な決まりが一つあります。
枠を否定しません。
その質問は前提が間違っています、という言い方をすると、面接官の問いを正面から否定したことになります。
面接官は、紙に書かれた問いを読んだだけです。否定された形になると、残りの時間が重くなります。
否定せずに置き直す言い方があります。
自分の見方を述べる形です。
さきほどの厳しさと優しさの問いで、やってみます。
「私は、この二つを分けて考えていません。宿題を続けて出していない子に、放課後に声をかけるとします。これは厳しさのようにも見えますし、優しさのようにも見えます。やっているのは、その子を放っておかない、という一つのことだと思っています。そのうえで、どちらが良い先生かという問いにお答えすると、子どもが困っているところに気づいて、そこに手が届く先生だと考えています。私は、気づくほうの力を先に身につけたいと思っています。」
二つ目。
理不尽な要求の問いで、やってみます。
「はい。ご連絡をいただいた時点では、理不尽かどうかの判断を私はしていません。まず、保護者の方が何を心配しておられるのかを、最後まで聞きます。そのうえで、学校として応じられることと、応じられないことを分けてお伝えします。応じられないことについては、理由を一つずつ説明します。学年の先生方と内容をそろえてから、お伝えするようにしています。」
三つ目。
主語の枠を、少しだけ動かしてみます。
問いは、学級でものがなくなったとき、あなたはどうしますかとします。
「はい。私が最初にやることは、その日のうちに学年主任の先生にお伝えすることです。一人で調べて一人で収めると、同じことが起きたときに学校として手が打てなくなります。そのうえで、私が担任として続けることは、朝の会で毎日、学級の全員の顔を見ることです。なくなったものを探すより、誰がどんな顔で来ているかを見ているほうが、早くわかることがあります。」
主語を学校に移したうえで、自分がやることを残しました。
★置き直したあと、必ず問いに正対して閉じます
この技法で、いちばん起きやすく、いちばん損の大きい失敗があります。
枠を置き直して、自分の見方を語って、そこで終わることです。
面接官のメモには、質問に答えていない、と書かれます。
どれだけ良い見方を述べていても、この一行が書かれた時点で、その回答の点は入りません。
なぜ起きるのか。
枠を置き直すと、話していて気持ちがよくなります。
自分の考えを述べている感じがします。
手応えがあるので、そこで満足して止まります。
防ぎ方は、一つです。
問いの末尾の言葉を、自分の答えの末尾でもう一度使います。
どちらが良い先生だと思いますかと聞かれたら、最後は、こういう先生だと考えています、で閉じます。
どのように対応しますかと聞かれたら、最後は対応を述べて閉じます。
何が大切だと思いますかと聞かれたら、最後は、これが大切だと考えています、で閉じます。
さきほど挙げた三つの語りは、どれもこの形になっています。
入口で枠を置き直して、出口で問いの言葉に戻っています。
時間の配分も決めておきます。
一つの質問に対する答えは、三十秒から四十秒です。
そのうち、枠の置き直しに使えるのは、十秒ほどです。
残りの二十秒から三十秒で、問いに答えます。
置き直しは入口です。
入口が長い家には、入りたくなくなります。
★追質問は、置き直した枠を試してきます
枠を置き直すと、面接官は、その枠について聞いてきます。
厳しさと優しさを分けて考えていないと述べた人には、たとえばこう来ます。
では、どうしても叱らなければならない場面では、どうしますか。
枠が自分のものであれば、答えは同じところから続きます。
「叱る場面でも、やっていることは同じだと思っています。その行動を放っておかない、ということです。ですから、私が選ぶのは、声の大きさではありません。その場で全員の前で話すか、あとで二人で話すかのどちらかです。本人が周りの目を気にする子なら、あとで二人で話します。」
枠が借り物であれば、ここで止まります。
本で読んだ言い回しを覚えてきただけの場合、二つ目の質問に出口がありません。
ですから、置き直す枠は、本番の前に試しておきます。
試し方があります。
その枠から、答えが二つ出るかを確かめます。
厳しさと優しさを一つのこととして見る枠から、放課後の声かけの話が出ました。叱る場面の話も出ました。
二つ出たので、この枠は使えます。
一つしか出ない枠は、本番で止まります。
一つしか出ないのは、その枠が自分の経験から出ていないという合図です。
★枠を置き直せる人は、エトスが立ちます
第2回から第5回で扱った説得の三様式を、ここで使います。
エトス(語り手への信頼)、
パトス(聞き手の感情が動くこと)、
ロゴス(筋道)の三つです。
説得の強さは、エトスが最も強く、次にパトス、ロゴスが最も弱いという順になります。
枠の中で答えた回答は、ロゴスの回答になります。
厳しさと優しさのどちらかを選び、理由を述べる。
筋は通ります。面接官は、話の整った人だと受け取ります。そこまでです。
枠を置き直した回答では、エトスが動きます。
面接官が受け取るのは、答えの中身より先に、別のものです。
この人は、出された問いをそのまま受け取らずに、一度自分の頭を通す人だ、という情報です。
そして、これが教室とつながります。
子どもが、どうせ無理です、と言ったとします。
その言葉には枠が付いています。
やってみたけれどできなかった、という枠ではありません。
やる前から自分には無理だと決めた、という枠です。
その言葉をそのまま受け取る教師は、励ますか、やらせるかのどちらかになります。
言葉に付いた枠を一度外して聞ける教師は、その子が何を見て無理だと決めたのかを聞きます。
面接官は学校にいる方です。
この違いを、毎日見ておられます。
問いの枠を読める人は、子どもの言葉の枠も読めるだろう。
面接官がそう考えるので、エトスが立ちます。
★枠を読む練習
毎日できる形のものを、三つ挙げます。
1.質問を、答えずに書き写す
想定質問を一つ選びます。そして、答えを書きません。
その問いが何と何を対にしているか、
何を決めてかかっているか、
答えの置き場所をどこに限定しているか。
この三つだけを書きます。
答えを作るのは、翌日でかまいません。
答えを作ろうとすると、枠が見えなくなります。
答えを禁止すると、枠だけが残ります。
2.問いの末尾に線を引く
どのように対応しますか。
何が大切だと思いますか。
どのように取り組みますか。
どう考えますか。
想定質問を読むときに、末尾の言葉だけに線を引きます。
これは、正対して閉じるための練習です。
入口の工夫に気を取られても、出口の言葉が頭に残っていれば、答えは問いに戻ります。
3.子どもの言葉で練習する
どうせ無理です。
面倒くさい。
別に。
やってもいいけど。
教室で毎日聞く言葉です。
この言葉が置いている枠を読みます。
別に、という言葉の枠は、関心がないという形をしているように見えます。
実際には、答えたくないという形をしている場合があります。
答えたくない理由が、周りに人がいることである場合もあります。
これは面接の練習ではありません。
教室の仕事です。
教室の仕事をやっていると、面接の技法が身につきます。
この三つ目を続けている人は、面接室に入る前に、もう練習を終えています。
★まとめ
面接室で出される問いは、面接官が作った問いではないことが多くあります。
手元の紙に書かれた言葉を読んでいます。
その言葉に付いてきた枠には、持ち主がいません。
質問票と慣習が持ち込んだ形が、そのまま残っているだけです。
持ち主のいない枠の中で、自分が思っていないことを述べて、二十分が過ぎることがあります。
枠を読むのに必要な時間は、二秒か三秒です。
問いを聞いて、何と何を対にしているかを見る。
何を決めてかかっているかを見る。それだけです。
そして、置き直したら、問いの言葉で閉じます。
入口で自分の見方を置き、出口で問いに戻る。
この往復が、一つの回答の形になります。
問いの枠を読むというのは、相手の言葉の形を見る作業です。
言葉の中身を見ません。
形を見ます。
これは、教室で毎日している作業と同じものです。
河野正夫

コメント