第3回:これまでの指導経験をどう語るか?(具体性と構造)【講師枠・臨採枠・現職枠で受験する人のために】
- 河野正夫
- 2025年6月29日
- 読了時間: 6分
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第3回:これまでの指導経験をどう語るか(具体性と構造)
信頼を獲得するための語りの設計図
教員採用試験の面接において、経験者枠が最も説得力を発揮できる場面の一つが、「これまでの指導経験を語る質問」です。
講師や臨時的任用教員、あるいは現職教員として、実際に子どもたちと関わり、授業や学級づくりを行ってきたことは、教職に対する理解や実行力の証として高く評価される要素です。
ただし、その経験が評価に結びつくかどうかは、単に「何をしたか」ではなく、「どう語るか」によって大きく左右されます。
本稿では、信頼感を与える指導経験の語り方について、構造的視点から深掘りし、「背景」「工夫」「成果」という3要素の活用法を解説していきます。

「語れる経験」と「語るべき経験」は違う
指導経験が豊富な方ほど、語りたいことも多くなります。
しかし、すべての経験がそのまま語るべき題材になるわけではありません。
面接で問われているのは、「この人は教員として子どもとどう向き合ってきたのか」「教職に必要な資質を備えているか」という本質的な問いです。
したがって、経験の選び方そのものが、自己理解の深さや教育観の成熟度を映し出すことになります。
たとえば、学力の課題を抱えた子どもへの支援、不登校傾向のある子への関わり、クラス全体の雰囲気を変える取り組みなどは、個別性が高く、語りが深まりやすい題材です。
一方で、「楽しかった授業」「子どもがよく発言した活動」などは、語る内容が抽象的になりやすく、説得力が乏しくなる傾向があります。
語るべき経験は、「自分が葛藤した場面」「意図をもって工夫した場面」「子どもの変化を実感できた場面」のいずれかを満たすものが理想的です。
その場面を通して、自分が何を大切にしてきたかを明確に語れるかどうかが問われます。
語りの基本構造:「背景」「工夫」「成果」
経験を語る際には、3つの構成要素を意識すると、話に一貫性と説得力が生まれます。
1. 背景(子どもの実態と場面の文脈)
最初に必要なのは、「どのような場面で、どのような子どもに対して、どんな課題を抱えていたか」を簡潔に伝えることです。
面接官は当該経験を知らない第三者ですから、背景の提示が不十分なまま本題に入ると、内容が伝わらなくなります。
たとえば、「国語の授業で発言が少ない子どもに対して工夫した」という語りなら、その子がなぜ発言できなかったのか、学級の雰囲気や授業の構造にどんな課題があったのかを示す必要があります。
このように背景を適切に提示することで、取り組みの意味が明確になり、語りが単なる「美談」にならず、現実感を帯びて聞き手に届くようになります。
2. 工夫(指導者としての意図的な働きかけ)
次に求められるのが、「どのような意図をもって、どのような工夫を行ったのか」の説明です。
ここでは、経験者としての専門性が最も表れます。
単に「声をかけた」「座席を変えた」といった行動の記述だけでなく、「なぜそのような手立てを選んだのか」「他の方法と迷ったうえで選択した理由」などを含めると、深みが生まれます。
また、「工夫」を語る際には、授業づくりや個別支援、学級経営など複数の視点から構成できると効果的です。
たとえば、一人の子どもへの支援を「授業での配慮」「休み時間の関わり」「保護者との連携」の三層構造で語ることで、受験者の力量の幅が伝わります。
3. 成果(子ども・自分・集団の変化)
最後に、行った取り組みがどのような影響をもたらしたかを述べます。
ここで重要なのは、「変化を過度に強調しすぎないこと」です。
すべての教育的取り組みが、すぐに目に見える成果を生むわけではありません。
むしろ、わずかな反応の変化や、子どもの表情の違い、保護者の一言など、微細な変化を丁寧に語ることで、誠実な実践者としての印象が伝わります。
また、「自分自身の気づきや成長」を合わせて語ることも有効です。
たとえば、「この経験を通して、教師の言葉が子どもの行動に与える影響の大きさに気づいた」「今後はもっと見取りの視点を大切にしていきたい」といった内省を語ることで、自己研鑽意欲のある人物であることが伝わります。
構造化された語りが信頼を生む理由
教育という営みは、即効性や数値化が困難な側面を多く含んでいます。
だからこそ、語られる内容が論理的に構造化されていることが、受験者の思考力や誠実性を判断する重要な材料になります。
感覚的な語りや、表層的な「がんばった話」だけでは、面接官の心には響きません。
背景・工夫・成果の三要素を意識しながら語ることは、「この人は現場で起きていることを整理し、他者に伝える力を持っている」と感じさせる効果を持ちます。
これはまさに、教員として必要とされる資質の一つです。
さらに、こうした構造化された語りは、他の質問への応答にも応用が利きます。
たとえば、「子ども理解」「学級経営」「授業観」などの抽象的な問いにも、自分の経験をベースにしながら語る力がついていきます。
語りに深みを持たせるための補助的視点
語りをさらに厚みのあるものにするためには、次のような視点を取り入れることが効果的です。
1. 継続性の提示
単発の取り組みだけでなく、「その後も同様の関わりを続けている」「似た課題に対して別の場面でも工夫している」といった継続性を示すことで、実践に一貫性があることが伝わります。
2. 組織との連携
個人で完結する実践ではなく、「学年会で相談した」「管理職と方針をすり合わせた」といった、学校組織の中での動きが語られると、協働性への理解と配慮がうかがえます。
3. 教師としての課題意識
経験を語ったうえで、「この経験を通して、自分に足りない視点にも気づいた」といった自己省察を含めると、成長志向のある教員像が立ち上がります。
総括:
第3回のまとめ
本稿では、経験者枠の面接における「指導経験の語り方」について、以下の観点を中心に解説しました。
☆経験は「語りたいもの」ではなく「語るべきもの」を選ぶ必要がある
☆語りの基本構造は「背景」「工夫」「成果」の三段階
☆工夫は単なる行動ではなく、意図と選択の根拠を含めて語る
☆成果には子ども・自分・集団それぞれの変化を含めると厚みが出る
☆構造化された語りは信頼と理解を生む
☆継続性・組織連携・課題意識といった補助的視点でさらに深められる
次回(第4回)では、「困難な経験とその乗り越え方の語り方」を扱います。
失敗や葛藤をいかに語り、自己肯定と反省をどう両立させるか。
その語りの在り方を通して、経験者に期待される成熟した教師像の描き方を検討していきます。
河野正夫



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