第24回:原稿と脚本の違い。【初歩から学ぶ面接合格戦略】(30回連載シリーズ)
【初歩から学ぶ面接合格戦略】(30回連載シリーズ)
第24回:原稿と脚本の違い
★二つの言葉を定義します
まず、言葉をはっきり分けておきます。
原稿とは、文字言語による文章の表記です。
読まれることを前提に作られます。
脚本とは、口頭で語る台詞を、文字で記録したものです。
聞かれることを前提に作られます。
どちらも、紙に文字が並んでいます。
見た目は、よく似ています。
しかし、作られ方がまったく違います。
今回は、この違いを扱います。

★多くの受験者は、原稿を書いています
面接の準備として、質問への答えを書きます。
パソコンに向かいます。
あるいは、ノートを開きます。
文章を組み立てていきます。
書き終えたら、読み返します。
正しいことが書いてある。
構成も整っている。
法令にも、施策にも矛盾していない。
それで、満足します。
ここで、作業が終わってしまう方が、たいへん多くいらっしゃいます。
声に出して、耳で確かめる工程が、まるごと抜けています。
★書いたものが文章語になる理由
なぜ、そうなるのでしょうか。
文字で書く作業をしている間、働いているのは、文字の回路です。
目で見ます。
文字で考えます。
文字で整えます。
この状態で出てくる言葉は、自然に文章語になります。
書き言葉として整った表現が選ばれます。
話し言葉としての自然さは、検討されません。
そして、完成した文章を読み返すときも、また目で読みます。
文字の回路で書いたものを、文字の回路で検証しているわけです。
これでは、音の問題は一つも見つかりません。
★実例その一 四字熟語
具体的に見ていきます。
好きな言葉を問われて、こう答えたとします。
「臥薪嘗胆です」
音だけで、伝わるでしょうか。
まず、伝わりません。
では、文字を説明すればよいでしょうか。
「臥せるという字に、薪、嘗めるという字に、胆と書きます」
この説明を聞いて、面接官の中に意味が立ち上がるでしょうか。
やはり、伝わりません。
文章であれば、漢字を見た瞬間に意味が届きます。
音声では、その手がかりが消えます。
口頭で好きな言葉を伝えるのであれば、音だけで届く形にします。
「失敗は、成功へ向かう過程にすぎない」
この形であれば、最後まで音だけで届きます。
そして、面接官の中に、意味が残ります。
★実例その二 漢字に頼った言葉遊び
もう一つ、よく見かける形があります。
「教育とは、共に育つと書く、共育だと考えています」
この表現は、文字で見れば成立します。
なるほど、と思わせる力もあります。
しかし、音では、まったく成立しません。
きょういくと、きょういく。
音が、同じだからです。
聞いている面接官には、同じ言葉を二回繰り返したようにしか届きません。
テレビでは、こうした表現が使われることがあります。
画面に、字幕が出るからです。
面接室には、字幕がありません。
漢字を見せられない場では、漢字に頼った表現は使えません。
★日本語は、音で崩れやすい言語です
ここが、今回の中心にあたる部分です。
日本語には、同音異義語が極端に多くあります。
そして、漢字という表意文字に支えられた表現が、豊かに発達してきました。
この二つが重なるため、文字では明瞭なのに、音にすると曖昧になる表現が、大量に生まれます。
これは、日本語の欠点ではありません。
文字と音が、それぞれ違う役割を持っているということです。
ただし、面接という場では、音の側しか使えません。
対策本に載っている文章も、生成AIが出力する文章も、文字としては整っています。
しかし、音として検証されているとは限りません。
そのまま使うと、文字で整った表現を、音の場に持ち込むことになります。
★実例その三 音にすると崩れる他の類型
ほかにも、音で崩れやすい形があります。
1.同音異義語。
しこう。
思考、志向、施行、試行。
きかん。
期間、機関、基幹。
文脈で判断できる場合もありますが、聞き手に一瞬の迷いが生まれます。
2.長い修飾。
文の前半に修飾が積み重なると、音では構造を追えません。
「子どもたちが自分の考えを安心して表現できる学級の雰囲気づくりを大切にしたいと考えています」
文字なら読み直せます。
音は、流れて消えていきます。
3.漢語の連続。
熟語が続くと、音の塊になって、意味が流れません。
「主体的対話的深い学びの実現に向けた授業改善の推進」
音として聞くと、ほとんど内容が残りません。
4.数字と記号。
一つ目、二つ目、三つ目と並べても、音では順序が見えにくくなります。
三つ挙げるなら、間を置いて、はっきり区切る必要があります。
★脚本家とスピーチライターは、音で書きます
ここで、専門家の作業を見ておきます。
脚本家やスピーチライターは、台詞を音で書きます。
最終的には、文字にします。
しかし、書いている間に働いているのは、音の回路です。
声のリズム。
間の位置。
聞いたときの印象。
言いにくい箇所。
これらを確かめながら、文字に移していきます。
ですから、彼らが書いた脚本は、表面上は文字で書かれていても、実は音で書かれています。
文字は、音を記録するための手段にすぎません。
★自分の原稿を、脚本に変える手順
実際の作業に落とします。
四つの工程です。
1.声に出して読みます。
黙読では、問題が見つかりません。
必ず、口を動かしてください。
2.録音して、聞き手として聞きます。
自分の声を、耳で確認します。
話しているときには気づかない箇所が、聞くと見つかります。
3.音だけで意味が立ち上がらない箇所に、印をつけます。
四字熟語。
漢語の連続。
長い修飾。
同音異義語。
4.その箇所を、音で届く表現に置き換えます。
この四つの工程を経ていない原稿は、まだ脚本になっていません。
★口頭で届く表現の特徴
置き換えの指針も、挙げておきます。
和語を多く使います。
漢語より、やわらかく届きます。
一文を、短く切ります。
長い文は、音では構造が消えます。
修飾は、修飾される言葉の近くに置きます。
離れるほど、音では結びつきにくくなります。
具体的な場面の言葉を使います。
抽象的な熟語より、はるかに残ります。
聞き返されそうな語は、避けます。
一度で届かない語は、その時点で役目を果たしていません。
★第24回のまとめ
原稿は、読まれるために書かれます。
脚本は、聞かれるために書かれます。
面接で使うのは、脚本です。
文字で書き、文字で読み返して満足した時点では、準備はまだ半分です。
声に出す。
録音して聞く。
音で崩れる箇所を見つける。
音で届く表現に置き換える。
ここまで終えて、はじめて脚本になります。
河野正夫

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