第12回:面接における脚本とは? 【初歩から学ぶ面接合格戦略】(30回連載シリーズ)
【初歩から学ぶ面接合格戦略】(30回連載シリーズ)
第12回:面接における脚本とは?
★戦略が決まったら、脚本に取りかかります
戦略で決めたのは、配分でした。(前回の記事を参照。)
どの札を、どの質問で出すか。
何を前に出し、何を後ろに置くか。
脚本は、その配分を、実際の言葉に変える工程です。
戦略が設計図だとすれば、脚本は建物そのものにあたります。
どれほど優れた設計図があっても、建物が建たなければ、人は住めません。
同じように、どれほど優れた戦略があっても、脚本がなければ、面接官には何も届きません。

★脚本は、一問一答の答えの束とは違います
予想質問を五十問並べ、それぞれに答えを書いていく。
多くの受験者が、この作業を面接準備だと考えています。
しかし、答えを五十個並べたものは、脚本になりません。
面接の脚本とは、受験者の経歴、経験、バックグラウンド、年齢、プロフィールに基づき、その受験者ならではの想いを、言葉という形にした戦略的な語りのカタチです。
ここで押さえておきたいのは、単位の違いです。
答えの束は、一つの質問を単位にしています。
脚本は、一人の人間を単位にしています。
一問ごとに答えを作ると、五十個の答えが、それぞれ別の方向を向いてしまいます。
志望動機では熱意ある人に見え、自己アピールでは慎重な人に見え、場面指導では厳しい人に見える。
一つひとつの答えは優れていても、面接官の中で、一人の人物像が結ばれません。
脚本は、最初に人物を決め、その人物が五十の質問にどう答えるかを書いていきます。
順序が、逆になります。
★脚本は、四つの要素でできています
では、面接の脚本には、具体的に何が書かれているのでしょうか。
ドラマや舞台の脚本になぞらえると、分かりやすくなります。
面接の脚本は、次の四つの要素でできています。
1.人物設定。
2.場面。
3.台詞。
4.背景。
一つずつ見ていきます。
★要素その一 人物設定
人物設定とは、面接官に最終的に残したい自分の姿を、一文で言える形にしたものです。
たとえば、次のような一文です。
「一人の子供の小さな変化を見逃さず、その変化を学級全体の力に変えていける教師」
「前職で培った調整力を、保護者と学校をつなぐ場面で生かせる教師」
「失敗を恐れず挑戦し、その姿を子供たちに見せ続けられる教師」
この一文は、面接の中で口に出すものではありません。
脚本を書く側が、常に手元に置いておく指針です。
すべての回答は、この一文に向かって書かれます。
志望動機も、自己アピールも、場面指導も、最終的にこの人物像を面接官の中に立ち上げるために存在します。
人物設定を決める材料は、戦略の段階で棚卸しした持ち札です。
主力の札を並べたとき、そこに共通して流れているものは何か。
それを言葉にしたものが、人物設定になります。
★要素その二 場面
場面とは、戦略で選んだ札を、情景として語れる形に仕上げたエピソードです。
札の段階では、まだ一行のメモにすぎません。
「実習最終日に、発言の少なかった生徒が手紙をくれた」
これを、場面に仕上げます。
いつだったのか。
どこだったのか。
その生徒は、それまでどんな様子だったのか。
手紙には、何が書かれていたのか。
それを読んだとき、自分は何を感じたのか。
その経験が、いまの自分に何を残したのか。
ここまで書き起こして、はじめて一つの場面になります。
場面を仕上げるときの基準は、面接官がその光景を思い浮かべられるかどうかです。
聞いている面接官の中に、教室の光景や生徒の表情が浮かぶ。
その状態まで持っていきます。
★要素その三 台詞
台詞とは、実際に口にする言葉です。
ここで最も大切な原則があります。
台詞は、その人らしい言葉で書きます。
誰が語っても同じになる言葉は、脚本の台詞になりません。
「子供一人ひとりに寄り添い、主体的・対話的で深い学びを実現したいと考えています。」
この一文は、正しい内容です。
しかし、この文を語る受験者は、会場に何十人もいます。
面接官は、同じ文を一日に何度も聞いています。
台詞を書くときは、その受験者が普段使う語彙を生かします。
話すときのリズムを生かします。
言葉の選び方の癖を生かします。
普段から短い言葉で話す人の台詞は、短く書きます。
丁寧に言葉を重ねる人の台詞は、その丁寧さを残します。
営業職の経験がある人の台詞には、相手の反応を確かめながら進むような運びを入れます。
そうして書かれた台詞は、本人の口から出たとき、本人の声として響きます。
借り物の響きが消えます。
★要素その四 背景
背景とは、台詞には出てこないけれど、その台詞の裏にある理由や経緯です。
舞台俳優は、自分が演じる役の生い立ちを知っています。
脚本には書かれていない、子供時代の出来事や、家族との関係まで、自分で設定して舞台に立ちます。
台詞の一つひとつが、その背景から自然に出てくるようにするためです。
面接の脚本も、同じです。
「子供の小さな変化を大切にしたい」という台詞があるとします。
その台詞の背景には、何があるのか。
自分自身が、小学生のとき、担任の先生に小さな変化を気づいてもらった経験がある。
講師として働いたとき、変化を見逃して、後から悔やんだ経験がある。
前職で、部下の小さな不調を放置した結果、大きな問題になった経験がある。
こうした背景は、最初の回答では語りません。
しかし、脚本の中には書き込んでおきます。
★人物設定が、全体を貫く一本の線になります
四つの要素がそろうと、脚本は一つの作品として機能し始めます。
とりわけ、人物設定の効果は大きなものです。
面接では、さまざまな質問が飛んできます。
志望動機。
自己アピール。
子供たちに伝えたいこと。
学級経営の方針。
保護者対応。
場面指導。
質問の種類が変わっても、同じ人物が語っているように聞こえること。
これが、脚本の最大の目的です。
人物設定の一文があると、すべての回答がそこに収束していきます。
面接が終わったとき、面接官の中には、一人の人物像がはっきりと残ります。
面接全体で、終始一貫した自分という人間を示すことができます。
★背景があるから、追質問に答えられます
追質問は、台詞の裏側を問う質問です。
「なぜ、そう考えるようになりましたか」
「そのとき、ほかの選択肢はありませんでしたか」
「うまくいかなかった場合は、どうしますか」
一問一答の答えしか用意していない受験者は、ここで言葉に詰まります。
用意した答えの外側に、何も持っていないからです。
背景まで書き込まれた脚本を持っている受験者は、違います。
台詞の外側に出されても、その外側に何があるかを知っています。
追質問は、準備しておいた背景を語る機会になります。
脚本があれば、追質問に自信を持って答えることができます。
自信は、根拠のある準備から生まれます。
★脚本があれば、自分という役を演じられます
面接は、自分という役を演じる場です。
役を演じるには、脚本が必要です。
脚本がない状態で舞台に立つと、語りはその場の緊張に流されます。
思いついた順に言葉が出て、途中で方向を見失います。
面接官の反応が薄いと、焦って話を足してしまいます。
脚本がある受験者は、緊張の中でも、自分の軸に戻ってこられます。
人物設定という一本の線が、語りを支えているからです。
★スピーチライターの指導を受ける意味
ここで、脚本を誰が書くのかという問題に移ります。
面接の脚本は、教育に精通したプロのスピーチライターに指導を受けることが、合格への秘訣です。
スピーチライターと聞くと、代わりに原稿を書く人を思い浮かべる方がいるかもしれません。
それは、ゴーストライターの仕事です。
二つは、まったく違います。
ゴーストライターは、書き手の言葉で書きます。
依頼者の名前を借りて、書き手が自分の文章を書きます。
スピーチライターは、話し手の心と想いと言葉で書きます。
話し手の経歴と経験と資質に基づいて書きます。
書かれた言葉は、最初から最後まで、話し手のものです。
★プロの脚本が、本人の語りより本人らしくなる理由
プロのスピーチライターが書いた脚本は、その話し手が即興で語るよりも、はるかにその話し手らしい語り口になります。
逆説に聞こえるかもしれません。
しかし、仕組みを知れば、当然の結果です。
スピーチライターは、まず、話し手への聞き取りを重ねます。
経歴を聞き、経験を聞き、そのときの気持ちを聞きます。
話し手が最も自然に、最も熱を込めて語った瞬間の言葉を、一つずつ拾い集めていきます。
人は、普段の会話の中で、ときどき、自分の本質を突いた言葉を口にします。
しかし、本人はそれに気づかず、すぐに次の話題へ移ってしまいます。
スピーチライターは、その言葉を逃しません。
次に、緊張や迷いで混じる雑音を取り除きます。
言い淀み、繰り返し、脇道にそれた部分。
それらを削り、その人の語り口の芯だけを残します。
最後に、残った言葉を、人物設定に沿って配置し直します。
こうしてできあがった脚本には、話し手の最良の瞬間だけが集められています。
本人が面接の場で即興で語るより、はるかに本人らしい語りになります。
★最終的には、自分で書けるようになります
理想を言えば、受験者自身が、自分の脚本を書けるようになることです。
ただし、最初からそこを目指すと、遠回りになります。
自分の言葉の中から、自分の本質を突いた言葉を見つけ出すのは、難しい作業です。
自分にとって当たり前すぎて、価値に気づけない言葉が、たくさんあります。
最初は、スピーチライターの指導を受けてください。
スピーチライターが書いた脚本を、手本として読み込んでください。
自分の言葉が、どう選ばれ、どう配置されているのかを学んでください。
そこから、自分で書く力を少しずつ育てていく。
この順序が、合格への王道です。
★第12回のまとめ
面接の脚本は、一人の人間を語るための文書です。
人物設定、場面、台詞、背景。
この四つの要素でできています。
その人らしい言葉で書かれた脚本が、面接全体の一貫性を生みます。
背景まで書き込まれた脚本が、追質問への強さを生みます。
そして、脚本を手にした受験者は、自分という役を、自信を持って演じられるようになります。
河野正夫

コメント