第10回:構成。【面接で満点合格を目指すためのレトリック理論講座】(20回連載シリーズ)
【面接で満点合格を目指すためのレトリック理論講座】(20回連載シリーズ)
第10回:構成
★同じ四つの文を、順番だけ変えてみます
学級担任として、学級づくりで大切にしたいことは何ですか。
この問いに対する答えを、四つの文で作りました。
まず、こう並べます。
「私が大切にしたいのは、黙っていられる場所を学級の中に作ることです。教育実習のとき、休み時間になると図書室へ行く生徒がいました。あとで聞いてみたら、教室は、ずっと誰かと話していないといけない感じがすると言いました。ですから、朝の会では、順番に話す形だけにせず、書いて出す形も選べるようにしています。」
次に、同じ四つの文を、順番だけ入れ替えます。
「教育実習のとき、休み時間になると図書室へ行く生徒がいました。あとで聞いてみたら、教室は、ずっと誰かと話していないといけない感じがすると言いました。私が大切にしたいのは、黙っていられる場所を学級の中に作ることです。ですから、朝の会では、順番に話す形だけにせず、書いて出す形も選べるようにしています。」
語句は一字も変えていません。文を足してもいません。順番だけが違います。
読んでみると、二つ目のほうが引き込まれるかもしれません。
図書室の場面から始まるので、情景が先に立ちます。
ところが、面接室では、二つ目に問題が起きます。

★話し言葉は、巻き戻せません
文章の読者は、わからなくなったら前に戻れます。一行上を読み直せます。
面接官は、戻れません。
音は一度だけ流れます。
聞き逃したところを、もう一度再生することができません。
ですから面接官は、聞きながら、同時に整理しています。
整理するための手がかりを先にもらっているかどうかで、残るものが変わります。
二つ目の順番を聞いた面接官は、図書室の話を聞きながら、これは何の話だろうと考えています。
考えながら聞いているので、生徒の言葉が半分しか入りません。
三つ目の文で、黙っていられる場所の話だったのか、とわかります。
わかった時点で、前の二文はもう流れています。
一つ目の順番を聞いた面接官は、最初の一文で、何の話かがわかります。
ですから図書室の場面を、黙っていられる場所の例として聞きます。
置き場所が先に決まっているので、生徒の言葉がそこに入ります。
同じ四つの文で、残るものが変わりました。
面接の場では、この差がもう少し広がります。
面接官は二人か三人います。
一人が質問をしているとき、別の一人は手元の紙を見ていることがあります。
全員が、こちらの声を最初から最後まで等しく聞いているわけではありません。
途中から顔を上げた面接官にとって、最初の一文は、もう流れています。
そのうえで、こちらにも事情があります。
自分で話しているとき、自分は中身を全部わかっています。
わかっている人には、順番の悪さが見えません。
図書室の話から始めても、自分の頭の中では黙っていられる場所の話だと最初から決まっています。
ここが、準備の段階で見落とされる理由です。
自分が読み返すかぎり、どの順番でも通じて聞こえます。
なお、小論文やエントリーシートでは、二つ目の順番のほうが効きます。
場面から入って、最後に自分の判断を置く形です。
読者は戻れますから、情景を先に置いても困りません。
同じ材料でも、話すのか書くのかで、順番が変わります。
★最初の一文は、決まっています
面接の答えでは、最初の一文に結論を置きます。
問いに対する答えを、先に出します。
面接官は、最初の一文で一つの判断をしています。
これは自分が聞いたことへの答えなのかどうか。
この判断がついてから、残りを聞きます。
結論の一文は、問いの言葉を借りて作ります。
大切にしたいことは何ですかと聞かれたら、私が大切にしたいのは、で始めます。
どのように対応しますかと聞かれたら、私がまずやることは、で始めます。
何に気をつけていますかと聞かれたら、私が気をつけているのは、で始めます。
問いの言葉をそのまま借りると、正対していることが一文目で伝わります。
借りた言葉は、面接官の耳にすぐ入ります。
自分が今まさに口にした言葉だからです。
長い問いが来たときには、少し注意が必要です。
学級の中に、話し合いに加わらない子がいた場合、担任としてどのように関わりますか。
この問いには、状況の説明と、聞かれていることの二つが入っています。
結論に置くのは、後ろのほうです。
どのように関わりますか、に答えます。
前半の状況を言い直すところから始めると、一文目が説明になり、結論が二文目以降に下がります。
一つの答えは、三十秒から四十秒です。
入る文の数は限られています。
そのうち最初の一文は、こうして先に決まります。
構成という工程に残されているのは、二文目から最後までです。
★構成の仕事は、残りの順序と、最後の一文です
最初が決まっているので、構成が決めているのは、残りの並べ方と、最後に何を置くかです。
このうち、効くのは最後です。
理由があります。
語り終わったあとの数秒、面接官は次に何を聞くかを考え始めています。
その数秒のあいだ、頭に残っているのは、最後に聞いた一文です。
ここで、第2回から第5回で扱った説得の三様式が働きます。
エトス(語り手への信頼)、
パトス(聞き手の感情が動くこと)、
ロゴス(筋道)
の三つです。
説得の強さは、エトスが最も強く、次にパトス、ロゴスが最も弱いという順になります。
最後に何を置くかで、立ち上がる様式が変わります。
さきほどの四つの文で試します。
一つ目。具体策で閉じます。
「私が大切にしたいのは、黙っていられる場所を学級の中に作ることです。教育実習のとき、休み時間になると図書室へ行く生徒がいました。あとで聞いてみたら、教室は、ずっと誰かと話していないといけない感じがすると言いました。ですから、朝の会では、順番に話す形だけにせず、書いて出す形も選べるようにしています。」
ロゴスの答えです。
やることが決まっている人として伝わります。
筋は通りますが、人柄はあまり出ません。
二つ目。生徒の言葉で閉じます。
「私が大切にしたいのは、黙っていられる場所を学級の中に作ることです。朝の会では、順番に話す形だけにせず、書いて出す形も選べるようにしています。これは、教育実習のときに会った生徒から教わりました。休み時間になると図書室へ行く生徒で、あとで聞いてみたら、教室は、ずっと誰かと話していないといけない感じがすると言いました。」
パトスが動きます。
教室の中で息が詰まっていた一人の子の言葉が、最後に残ります。面接官は学校にいる方です。
自分の学級にいた子の顔が浮かびます。
順番を変えたので、つなぎの言葉が変わりました。
ですからを外して、これは、を入れました。
つなぎは変わりますが、
四つの文の中身は変わっていません。
順番を動かすときに動くのは、つなぎの言葉だけです。
三つ目。自分の考えで閉じます。最後の一文を、こう加えます。
「私が大切にしたいのは、黙っていられる場所を学級の中に作ることです。朝の会では、順番に話す形だけにせず、書いて出す形も選べるようにしています。これは、教育実習のときに会った生徒から教わりました。休み時間になると図書室へ行く生徒で、あとで聞いてみたら、教室は、ずっと誰かと話していないといけない感じがすると言いました。その子にとっては図書室でよかったのか、教室の中に場所を作るべきだったのか、今も考えています。」
エトスが立ちます。
終わった話として片づけていない人が見えます。
言い切らずに止めています。
第5回で扱ったエンテュメーマ、つまり省略三段論法の形です。
全部言い切らずに止めると、聞き手が残りを自分で埋めます。
埋めた分は、聞き手自身の考えになりますから、押しつけになりません。
ただし、この閉じ方には条件があります。
具体策を先に置いておくことです。
何もやっていない状態で、今も考えていますと言うと、決まっていない人として伝わります。
★語り終わりが、次の質問を呼びます
構成の実利は、ここに出ます。
この連載の初めの三十回で扱ったことを、一つ思い出してください。
面接官は採用人事の専門家ではありません。
多くは夏の数日間の充て職です。
一つ一つの質問に、緻密な意図は込められていません。
ということは、追質問も、あらかじめ用意されたものではありません。その場で作られます。
作る材料は、こちらの答えです。
そして材料として手近にあるのが、最後に聞いた一文です。
具体策で閉じた人には、その方法について聞かれます。
書いて出す形というのは、具体的にどうしていますか。
生徒の言葉で閉じた人には、その生徒について聞かれます。
その生徒は、その後どうなりましたか。
今も考えていますで閉じた人には、考えの中身を聞かれます。
今はどちらだと思いますか。
ですから、最後の一文を決めるときに、どの質問が来てほしいかを考えます。
自分がいちばん語れるところを、最後に置きます。
逆のことも起きます。
自分が答えにくいことを最後に置くと、そこを聞かれます。
最後の一文は、面接官に差し出す次の話題です。
★一つの答えに、一つのことだけ置きます
最初が結論で、最後が締めです。
中身に使える文は、その間の二つか三つです。
ここに二つのことを入れると、どちらも足りなくなります。
「黙っていられる場所も大切にしたいですし、子ども同士が話し合える関係も作りたいと思っています。」
二つとも、学級づくりで大事なことです。
ただ、この一文のあとに、両方の例を置く場所がありません。
例の付かない主張は、残りません。
一つに絞ると、例が付きます。
図書室へ行く生徒の話が入ります。
例が付いた主張は、残ります。
二つ入れたくなるのには、理由があります。
一つに絞ると、面接官が評価したい別の観点を外してしまうかもしれない、という心配が出ます。
保険をかけたくなります。
その保険は、追質問が引き受けます。
絞った結果、言えなかったことは消えません。
ほかにはありますかと聞かれたときに出せます。
別の質問で同じ材料を使うこともできます。
一つの面接は二十分から三十分あり、質問は何問も来ます。
一つの答えに全部入れる必要はありません。
★構成の手順
手順は三つです。
1.角度を一つ確認する
前回扱った発想の工程で、自分の材料のどこから見るかを決めています。構成は、その角度を受け取ります。
角度が決まっていないと、並べるものがありません。
レトリックの五つの工程、発想・構成・修辞・記憶・演出は、前の工程が出したものを次の工程が受け取る形で並んでいます。
構成から先に手をつけると、並べる材料がないまま、枠だけを作ることになります。
2.文を書き出す
並べる前に、文を作ります。
結論の一文。
場面の文。
自分の判断の文。
具体策の文。
この段階では順序を気にしません。四つから六つ書き出せば足ります。
3.最後の一文を先に決める
ここが要点です。
並べ始める前に、最後に置くものを決めます。
さきほどの材料でやってみます。
来てほしい追質問は、その生徒のその後についての質問だとします。
であれば、最後に置くのは生徒の言葉です。
生徒の言葉を最後に置くと決めた時点で、具体策は前に移ります。
残りの二文の位置も決まります。
最後を決めると、残りの置き場所は自然に決まります。
並べてから最後を選ぶと、順番が何通りも残って、決まらなくなります。
★まとめ
構成という工程は、新しいことを足しません。
すでに持っているものの順番を決めるだけです。
足さない工程ですから、時間はそれほどかかりません。
発想に半分を使った人なら、構成は四分の一で足ります。
ただ、順番を決めないまま面接室に入ると、その場で決めることになります。
音は一度しか流れません。
その場で決めた順番は、たいてい、思い出した順番になります。
思い出した順番は、自分の頭の中の順番です。
聞く側の順番ではありません。
最後に一つ。
構成は、面接官のために作ります。
自分が話しやすい順番と、面接官が受け取りやすい順番は、違うことがあります。
場面から話し始めたいと思う日もあります。
そのほうが話しやすいからです。
迷ったときは、面接官の側を取ります。
巻き戻せないのは、聞いている側です。
河野正夫

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