大学生の教採面接・合格術 1.学内講座では差がつかない。
- 河野正夫
- 11 分前
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大学生の教採面接・合格術
1.学内講座では差がつかない。
☆はじめに
教員採用試験を目指す大学生の多くが、まず頼りにするのが大学で開講される学内講座です。
教職課程の一環として、あるいは課外講座として、多くの大学が教員採用試験対策講座を提供しています。
これらの講座は確かに有用であり、基礎的な知識の習得や試験の全体像を把握するためには重要な役割を果たします。
しかし、教員採用試験の面接試験において、学内講座の受講だけでは決定的な差をつけることが難しいという現実を、受験生は理解しておく必要があります。

☆学内講座の実態
大学で開講される教員採用試験対策講座は、通常、教職を志望する学生を対象とした大規模な講座として運営されています。
一つの大学で数十名から、場合によっては百名を超える学生が同じ講座を受講することも珍しくありません。
講座の内容は、教職教養の基礎知識、一般教養の要点整理、論作文の書き方、面接の基本的な対応方法などが中心となります。
これらの講座を担当するのは、多くの場合、教員採用試験対策を専門とする民間の教育事業者です。
大学が直接運営するのではなく、外部の業者に委託する形式が一般的です。ここで重要なのは、こうした業者は複数の大学で同様の講座を担当しているという点です。
つまり、A大学で行われている講座と、B大学で行われている講座は、担当する業者が同じであれば、内容もほぼ同一ということになります。
仮に業者が異なったとしても、教員採用試験対策という性質上、扱う内容や指導方法に大きな違いは生まれません。
☆なぜ差がつかないのか
学内講座で差がつきにくい理由は、大きく三つあります。
第一に、同じ大学の学生が同じ講座を受講しているという点です。
教員採用試験は、各都道府県・政令指定都市ごとに実施されますが、同じ大学の学生の多くは、その大学が所在する都道府県の試験を受験する傾向があります。
つまり、同じ講座を受けた学生たちが、同じ自治体の試験で競い合うことになります。
全員が同じ内容を学び、同じ指導を受けているのですから、その中で突出することは容易ではありません。
第二に、複数の大学で同質の講座が行われているという点です。
前述の通り、多くの大学が同じ業者、あるいは同様のノウハウを持つ業者に講座を委託しています。
その結果、異なる大学の学生であっても、学んでいる内容は本質的に同じということになります。
面接試験において、ある自治体を志望する学生たちは、出身大学は異なっても、似たような準備をしてきているのです。
第三に、学内講座で教えられる内容は、あくまで基礎的・標準的なものに留まるという点です。
大規模な講座である以上、個々の学生の個性や強みを引き出すような個別指導は困難です。
講座では、一般的な面接の受け答えの型、無難な志望動機の組み立て方、標準的な教育観の表現方法などが教えられます。
これらは確かに重要ですが、面接官の印象に残るような独自性や説得力を生み出すものではありません。
☆採用側から見た風景
教員採用試験の面接官の立場から考えてみましょう。
面接官は、一日に何十人もの受験者と向き合います。
その中で、多くの受験者が似たような言葉遣い、似たような表現、似たような教育観を語るという状況に直面します。
「子供たちの可能性を信じて」「一人一人に寄り添った指導を」「保護者や地域との連携を大切に」といった言葉が繰り返されます。
これらの言葉は間違っていません。
教育の本質を表す重要な言葉です。
しかし、同じ表現が繰り返されると、面接官の心には響きにくくなります。
面接官が求めているのは、標準的な答えではなく、その人ならではの経験に基づいた具体的な語り、その人の人間性が伝わる言葉なのです。
学内講座で学んだ「模範解答」を暗記して臨む受験者は、確かに破綻のない受け答えはできます。
しかし、それは同時に、他の多くの受験者と同じ土俵に立つことを意味します。
面接官の記憶に残るような印象を与えることは難しいのです。
☆学内講座の本来の価値
ここまで述べてきたことは、学内講座が無意味だということではありません。学内講座には明確な価値があります。
まず、教員採用試験の全体像を理解できることです。試験の日程、出題傾向、面接の形式など、基本的な情報を効率よく得ることができます。
特に教員採用試験を受験する家族や知人が身近にいない学生にとって、こうした情報は貴重です。
次に、教職教養や一般教養の基礎を体系的に学べることです。
教育法規、教育心理学、教育史など、教職に必要な基礎知識を整理して学ぶ機会は重要です。
これらの知識は、面接試験だけでなく、筆記試験においても必要となります。
さらに、同じ目標を持つ仲間と出会えることです。
教員を志す学生同士が交流し、情報交換をし、互いに励まし合える関係を築けることは、精神的な支えとなります。
つまり、学内講座は「スタートライン」には立たせてくれますが、「ゴールテープ」を切らせてくれるものではないということです。
☆では、何が差をつけるのか
学内講座では差がつかないとすれば、何が合否を分けるのでしょうか。
それは、あなた自身の経験と、その経験から何を学んだかという省察の深さです。
面接試験で評価されるのは、あなたが教員としてどれだけの可能性を持っているかです。
その可能性は、教科書的な知識からは見えてきません。
あなたが実際に子供たちと関わった経験、困難に直面してどう対処したか、失敗から何を学んだか、そうした具体的なエピソードの中にこそ現れます。
教育実習での授業づくりの試行錯誤、学習支援ボランティアで出会った子供との関わり、塾講師のアルバイトで保護者と向き合った経験。
こうした一つ一つの経験を、丁寧に振り返り、そこから自分なりの教育観を紡ぎ出すこと。
これが、学内講座では決して得られない、あなただけの武器となります。
また、志望する自治体の教育施策を深く理解し、その自治体の学校現場が抱える課題を自分なりに考えること。
学内講座では、一般的な教育課題は教えてくれますが、特定の自治体に特化した研究まではカバーしません。
自分で教育委員会のウェブサイトを読み込み、その自治体の学校を訪問し、現場の空気を感じ取る。
そうした主体的な行動が、面接官に「この人は本気でこの自治体で教員になりたいのだ」という確信を与えます。
☆学内講座を超えるために
学内講座を受講することは否定しません。
むしろ、基礎固めとして積極的に活用すべきです。
しかし、そこで学んだことを鵜呑みにするのではなく、自分自身の経験と結びつけて咀嚼することが重要です。
講座で「子供一人一人に寄り添う」という言葉を学んだら、自分の教育実習で出会った子供たちの顔を思い浮かべてください。
あの子にはどう寄り添ったか、あの時の自分の対応は適切だったか。そうした具体的な場面と結びつけて初めて、言葉に説得力が生まれます。
講座で面接の模範解答を学んだら、それを暗記するのではなく、なぜその答えが良いとされるのかを考えてください。
そして、自分ならどう表現するかを、自分の言葉で組み立ててください。
学内講座は、いわば地図のようなものです。
地図は目的地への道筋を示してくれますが、実際に歩くのはあなた自身です。
地図を見ただけで目的地に着いた気になってはいけません。
自分の足で歩き、時には寄り道をし、景色を見て、その過程で得た気づきこそが、あなただけの財産となります。
☆結論
大学の学内講座は、教員採用試験の準備における重要な第一歩です。
基礎知識を習得し、試験の全体像を把握し、学習の方向性を定める上で大きな役割を果たします。
しかし、それだけでは合格に必要な差別化はできません。
同じ大学の多くの学生が同じ講座を受け、他の大学でも同様の内容が教えられている以上、学内講座で学んだことは、いわば「共通の土台」に過ぎません。
その土台の上に、あなた自身の経験、あなた自身の言葉、あなた自身の教育観を積み上げていくことが求められます。
教員採用試験の面接官は、マニュアル通りの受け答えをする受験者ではなく、自分の経験を深く省察し、自分の言葉で教育を語れる人材を求めています。
学内講座を出発点としながらも、そこから一歩踏み出し、自分だけの準備を積み重ねていくこと。
それが、合格への真の道筋となります。
河野正夫


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