【第6回】「学び続ける教師」としての語りを再設計する。
- 河野正夫
- 2025年6月11日
- 読了時間: 6分
【10回以上不合格だからこその教採面接講座】(連載シリーズ)
【第6回】「学び続ける教師」としての語りを再設計する
― ストーリーテリング戦略によって“成長する人”を印象づける ―
はじめに:
「学び続ける人」のイメージは“物語”でしか伝わらない
教員採用試験における面接では、語り手の能力や知識だけでなく、「この人は、これからも学び続け、成長していける人かどうか」が重要な評価軸の一つになります。
この「学び続ける姿勢」というのは、面接官にとって非常に重視される要素であり、特に現場経験が浅い受験者や、過去に不合格を重ねてきた受験者に対しては、「どれだけ省察し、変化し続けるか」が採否を左右する決定的要因になることがあります。
ところが、多くの受験者はこの「学び続ける力」を語る際に、理念的で抽象的な表現にとどまってしまう傾向があります。
たとえば、「私はこれからも学び続けたいと考えています」「常に努力を怠らず成長していきたいです」といった表現は、内容的には正しいものの、聞き手に“変化し続ける人間の姿”を想起させるには至りません。
面接において、「学び続ける教師」であることを伝えるには、抽象的な自己アピールでは不十分です。
求められるのは、自らの変化と学びを具体的な「物語」として構成し、聞き手がその人物像を鮮明にイメージできるような語りを行うことです。
つまり、“ストーリーテリング”を用いた語りの再設計こそが、面接突破の鍵となるのです。

なぜストーリーテリングが評価されるのか:
語りの構造と記憶のメカニズム
人は、単なる情報よりも「物語」のかたちで語られた内容に強く反応し、記憶に留めやすいという認知的特性を持っています。
心理学や認知科学の研究においても、物語的な構造が情報処理において持つ優位性は繰り返し示されています。
これは、物語が「状況」「葛藤」「変化」「結果」といった要素を含み、聞き手が自らの経験と照らし合わせながら受容できる形式になっているためです。
面接官にとっても、数十分間のやりとりの中で、限られた情報をもとに判断を下さなければならない状況において、「印象に残る語り」「人物像が浮かぶ語り」は非常に評価しやすく、記憶に残るものとなります。
とくに、教員という職業においては、知識や技能以上に、「変化の過程」「試行錯誤の履歴」「子どもとともに悩んだ経験」といった、プロセスの語り=ストーリーが重要視されます。
したがって、自己の教育観や指導観、また失敗からの学びを語る際に、物語形式を意識することは、単なる表現技法にとどまらず、職業的適性そのものを伝える手段となるのです。
ストーリーテリングの基本構造:
変化の軸を語る
ストーリーテリングを面接で活用する際には、エピソードを「出来事の列挙」として語るのではなく、「自分がどう変化したか」「何に気づき、それをどう活かしてきたか」という変化の軸を中心に据える必要がありま
す。
その基本構造として、以下のような流れが有効です。
第一に、「ある経験の具体的状況」を提示します。
ここでは、登場人物、場面、当時の自分の認識や行動などをできるだけ具体的に語り、聞き手が情景を想像できるようにします。
第二に、「その経験の中で直面した困難や葛藤」を示します。ストーリーには必ず“壁”が存在します。
自分がどう迷い、何を悩んだのかを明確にすることで、その後の変化に説得力が生まれます。
第三に、「自分が選んだ行動や考え方の転換」を語ります。単なる出来事の経過報告にせず、「なぜそのように考え、どう選択したのか」という内面的な動きを明示します。
第四に、「その経験が今にどうつながっているか」を言語化します。
ここで重要なのは、「経験を過去の一場面にとどめず、現在の教育観や行動に結びつけて語ること」です。
たとえば、「子どもが全く授業に参加せず困っていた」という話をするのであれば、その子へのアプローチを通して、「子どもに合った支援を考える習慣が身についた」や「生徒との対話の重要性を実感した」といった形で、成長としての結末を描く必要があります。
成長を語るストーリーの題材:
選定の視点
面接で語るストーリーは、特別な成功体験である必要はありません。
むしろ、以下のような題材が高く評価される傾向にあります。
一つ目は、「失敗や葛藤のエピソード」です。
これは、問題解決能力や自己省察力を示すのに最も適しています。
生徒指導での行き違い、授業での失敗、模擬授業での緊張などは、学びの契機として非常に優れた題材です。
二つ目は、「継続的な努力の軌跡」です。部活動での取り組み、資格取得の挑戦、教採への長期的取り組みなどは、「粘り強さ」や「志の継続性」を伝える素材となります。
三つ目は、「他者との関係の中で得た気づき」です。教職員との連携、子どもとのやり取り、保護者とのやりとりなどは、「人間関係の中でどう自分を調整してきたか」という点で、教育現場における資質として高く評価されます。
このように、「変化した自分」を浮かび上がらせる題材であれば、それが過去の不合格体験や教育実習での反省であっても、十分に“伝わる語り”となり得ます。
語りの信頼性は「再現性」と「現在性」で決まる
面接官が語りを聞く際に最も重視するのは、「その話がどれだけ信頼に値するか」です。
そして、その信頼性は、話の内容そのものよりも、「どれだけ自分の行動原理や教育観とつながっているか」「今の自分の実践に活きているか」によって左右されます。
したがって、過去の経験をただ感動的に語るのではなく、それが「今の自分をどう形作っているか」を明確に語ることが求められます。
たとえば、「失敗から学んだことを、現在どのように実践しているか」「そこで得た考え方を、今後どのような教育活動に活かしたいか」といった視点が、語りに再現性と現在性を与えます。
おわりに:
教師という職業は「変化する自分を言葉にできる人」である
教職とは、固定されたスキルや資質で対応できる仕事ではありません。
子どもたちの状況、学校の文化、社会的な課題は常に変化しており、それに応じて教員自身も変化し続けることが求められます。
だからこそ、面接においても、「学び続ける人間であること」を語る力が問われています。
そしてその語りは、「変化の物語」として再構成されてこそ、評価されるものになります。
次回は、この語りをさらに構造的に洗練させる技法として、PREP法やSTAR法などの論理的構成手法を取り上げ、即興的な語りの中でも説得力を持たせる話法の実践戦略を詳しく解説していきます。
河野正夫



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