【第4回】“想定問答”を超える戦略:質問に対する「語り方改革」入門
- 河野正夫
- 2025年6月9日
- 読了時間: 6分
【第4回】“想定問答”を超える戦略:
質問に対する「語り方改革」入門
丸暗記の限界を突破する、構造・印象・即興性のトライアングル
【10回以上不合格だからこその教採面接講座】(連載シリーズ)
はじめに:
想定問答は「出発点」であり「目的地」ではない
教員採用試験の面接対策において、多くの受験者が取り組んでいるのが、いわゆる「想定問答」の作成と暗記です。
これは、過去問や予想質問に対して事前に回答を準備し、それを言えるようにするという方法です。
たしかに、このアプローチには一定の効果があります。
準備を通じて、自身の考えや体験を整理できること、また基本的な言語化スキルが鍛えられることは否定できません。
しかし、10回以上の不合格を経験している受験者に共通する傾向として、「想定問答の暗記に終始し、それをそのまま“披露する場”として面接を捉えてしまっている」という現象が見受けられます。
これは、面接というものを一方向的なプレゼンテーションと誤解している状態であり、本質的には「語り」の形式と文脈に対する理解の欠如に起因しています。
本稿では、「準備した内容を答える」面接から、「相手の問いに応じて語る」面接へと脱皮するための構造的改革、すなわち語り方の再設計について、戦略的に解説します。

想定問答の限界:
記憶された答えは「語り」ではない
そもそも、面接とは「質疑応答の形式をとった相互行為」です。
そこでは、発話の内容だけでなく、応答のタイミング、話の構造、即時の対応力、そして語る姿勢や印象までもが評価の対象となります。
しかし、想定問答を一言一句覚えるスタイルの対策を行っていると、次のような限界に直面します。
第一に、「問いに対する応答性」が失われることです。
面接官の質問のニュアンスを正確に受け取らず、「この質問にはこの答えを言えばよい」という“記憶された対応表”に基づいて話すと、対話としての臨場感が失われ、受け答えに“ズレ”が生じます。
第二に、「自然な語りのリズム」が消失します。
暗記された文章を再生するような話し方は、話の抑揚や間の取り方に不自然さを生み、語っている本人の身体感覚と言葉が分離してしまいます。
これは面接官にとっても「借り物の言葉」のように感じられ、信憑性を損ねる要因となります。
第三に、「想定外の質問に対応できない」ことです。
覚えたことを話す前提で組み立てられた面接は、少しでも流れが崩れると破綻します。
そのため、質問が想定外の切り口や文脈からなされると、うまく答えられず動揺し、語り全体が崩れてしまいます。
こうした構造的弱点を克服するためには、「想定問答の丸暗記」ではなく、「語り方そのものを再構築する戦略」が必要です。
語り方改革の三本柱:
構造・印象・即興性
語り方改革とは、単に「自然に話す」ことを目指すのではありません。
以下の三要素を意識的に設計することで、どんな質問にも安定して応じられる語りの土台を築くことができます。
第一の柱は、「語りの構造化」です。話す内容をあらかじめ構造的に捉えておくことで、即興的な語りの中にも論理的展開が生まれます。
たとえば、
PREP法(Point→Reason→Example→Point)や
STAR法(Situation→Task→Action→Result)
といった話法は、質問に応じて情報を整理しやすく、短時間で説得力ある話を組み立てるのに有効です。
これらの話法を訓練しておくことで、「何をどの順序で話すか」を即座に設計できるようになります。
第二の柱は、「印象設計」です。語りの中身とともに重要なのが、「どう語るか」という印象のデザインです。
ここで言う印象とは、非言語的な表情や声の調子にとどまらず、語り口調の柔らかさ、視線の置き方、相手への配慮がにじむ言葉選びなどを含みます。
たとえば、「私は~しました」ではなく、「そのとき私が大切にしたのは~という視点です」と語ることで、聞き手が主体的に関心を持てるような印象に変わります。
第三の柱は、「即興性の涵養」です。
即興とは準備不足ではなく、準備に裏打ちされた柔軟性です。
複数のエピソードを構造的に整理し、各経験から得た学びや価値観を抽象化しておけば、その場の質問に合わせて文脈を編集し、エピソードを即時に再構成することが可能になります。
これこそが、真正面から質問に向き合う「対話的な語り」の核心です。
想定問答を「語りの素材」として再利用する
想定問答を完全に否定する必要はありません。
むしろ、それらは語りの「素材」として非常に重要です。
ただし、その素材を「文章として覚える」のではなく、「内容と構造のパーツ」として再構築する必要があります。
具体的には、各質問に対して次の三つを明確にします。
一つ目は、「この質問で伝えるべき価値観は何か」です。
これは、語り全体の背骨にあたる部分であり、自身の教育観・人間観・成長観などと接続される抽象度の高い要素です。
二つ目は、「その価値観を体現したエピソードは何か」です。
これは、具体的な場面や経験を用いて、上記の価値観を裏付けるものとして提示します。語るべきは「事実」ではなく「関わり」と「選択の理由」です。
三つ目は、「その経験からどのような学びがあり、今にどう活かされているか」です。
これを意識することで、経験が単なる思い出ではなく、現在と未来に接続された“意味ある語り”として構成されます。
この三層構造を意識しておけば、どんな質問が来ても「問いに応じた素材の再編集」が可能になり、語りの説得力と即興性が格段に向上します。
面接は「台本演技」ではなく「即興劇」である
面接は、台本のある演劇ではありません。
それは、質問者という相手がいて、その場で文脈が変化し、語りの意図が揺れ動く“即興劇”です。
面接官が何を期待し、どのような反応を示しているかを受け取りながら、語り手としてその場の文脈を読む力が求められます。
この即興性を支えるのは、「どれだけ多く覚えているか」ではなく、「どれだけ多くの語りを構造化し、自分の中に整理された形で持っているか」です。
暗記した一文を言えるかどうかではなく、その文の背後にある価値観と論理を再構築できるかが、語りの強さを決定づけるのです。
おわりに:
記憶された答えではなく、「語る力」を育てる
10回以上不合格を経験してきた方にとって、面接という場が「自分の努力が通じない苦しい空間」に感じられることは決して稀ではありません。
しかし、それはあなたの中に語るべき経験や教育観がないということではなく、「語り方という伝達回路」が機能していないという状態にすぎません。
語り方改革は、テクニックの話ではなく、自己理解と対話力を再設計する営みです。
構造、印象、即興性、この三要素を意識して語りを構築し直すことで、面接官との対話は初めて意味あるものになります。
次回は、この「語りの構造化」をさらに具体化し、PREP法やSTAR法といった話法の実践的活用法、さらにはその限界と応用についても詳しく解説していきます。
河野正夫



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