第13回:想定される「場面指導」質問とその乗り越え方①(保健室内の対応)『養護教諭のための無料講座』
- 河野正夫
- 6月19日
- 読了時間: 4分
『養護教諭のための無料講座』【全20回連載】
第13回:想定される「場面指導」質問とその乗り越え方①(保健室内の対応)
典型的な場面:過換気症候群・けんか・緊急搬送 など
判断の根拠と言葉の選び方
はじめに
「想定場面」に問われる実践的応答力
教員採用試験において近年頻出となっているのが、「場面指導」と呼ばれる質問形式です。
これは、ある具体的な状況が提示され、そのとき養護教諭としてどう対応するかを即時に語らせるものです。
とりわけ保健室内で起こる事態、過換気症候群への対応、子ども同士のけんか、急病やけがによる緊急搬送などは、その専門性が最も問われる場面です。
本講では、こうした典型的な「保健室内の緊急・突発的事態」への対応力を高めるために、判断の根拠と表現の工夫を軸に、実践的な語り方を構造的に検討していきます。

過換気症候群:
症状の把握と“安心”の言語化
ケース概要
生徒が体育の授業後、息苦しさを訴え、過呼吸のような状態になった。保健室に来室し、涙を流しながらパニックの様子を見せている。
対応のポイント
1. 身体的な異常と精神的な要因の両面から観察すること
→ 痙攣の有無、手足の冷え、顔色の変化などを確認しつつ、心理的要因が強いことも念頭に置く。
2. 安心感のある言葉かけと呼吸の調整誘導
→ 例:「大丈夫だよ。息がしづらいのは体がびっくりしてるからだね。ゆっくり数えてみよう。」
3. 周囲の雑音遮断・照明調整・一対一対応など環境の工夫
4. 経過観察と記録の明確化、必要に応じて保護者・医療機関への連絡
面接での語り方例
「過換気のような症状を見せる児童生徒に対しては、まず身体症状と心理的要因を両面から確認し、安心感を与える言葉がけを重視します。例えば、“今の呼吸は体が緊張しているサインだよ”と伝え、ゆっくり呼吸を促すよう心がけています。」
けんか・暴言などのトラブル:話の聴き方と公平な対応
ケース概要
授業中にトラブルがあり、複数の児童が興奮状態で保健室に来室。互いに暴言を吐き、泣いている子もいる。
対応のポイント
1. まず安全確保と空間的分離を優先する
→ 状況把握よりも先に、落ち着ける場を整える。
2. 一人ひとりの話を丁寧に聴き、「否定せず受け止める姿勢」
→ 感情の言語化を支援:「悔しかったんだね」「嫌な気持ちだったんだね」
3. 事実と感情を整理し、児童同士の関係修復の場を設定
→ 学級担任やSCとの連携、保護者への連絡のタイミング判断も重要。
面接での語り方例
「トラブルによる来室では、まずは子どもの安全と安心の確保を優先し、互いを落ち着かせる空間を分けるなどの工夫をします。そのうえで、一人ひとりの話を丁寧に聴き、感情を受け止めることで信頼関係の基礎を築いています。」
緊急搬送:
判断基準と「誰に」「いつ」連絡するか
ケース概要
昼食中に児童が突然腹痛と嘔吐を訴え、青ざめて立てない。既往歴にアレルギーはあるが、原因は不明。
対応のポイント
1. 急変の可能性を想定し、生命兆候(バイタル)の確認を徹底
→ 呼吸・意識・顔色・手足の冷たさなどから重篤性を推測
2. 養護教諭の判断権限と限界を自覚し、早めの医療機関連絡を優先
3. 教頭・担任・保護者への迅速かつ簡潔な報告、記録の同時進行
4. 後日の報告・再発防止の観点で学校全体との情報共有も検討
面接での語り方例
「保健室での緊急対応では、“自分の判断が命に関わる可能性がある”という意識を常に持ち、判断を一人で抱え込まず、速やかな連絡体制を最優先にします。」
「判断力」と「説明力」の両立が問われる
場面指導において評価されるのは、単なる知識や対応例ではなく、「なぜその対応をしたのか」という判断の根拠を論理的に説明できる力です。
特に養護教諭の場合、医学的視点・心理的配慮・教育的文脈の三側面を総合的に統合した語りが求められます。
面接官は「言い方」だけでなく、「判断の思想」を見ているという意識が重要です。
おわりに
「対応経験がない」場合の語り方
受験生の中には、実際にこうした場面に立ち会ったことがない方も少なくありません。
その場合は、「模擬事例や研修でのシミュレーション」「先輩教員の実践から学んだ対応原理」を元に、“もしこのような場面があればこう考える”という論理的仮想を示すことで、十分に説得力を持たせることができます。
大切なのは、実際の現場に出たときに「自らの判断を支える軸」があるかどうかです。
それを語れるようにしておくことが、「場面指導質問」を乗り越える確かな準備となります。
次回(第14回)は、「場面指導」第2弾として、教職員間・保護者対応など保健室の外側に広がるコミュニケーション課題への対応を深めていきます。
どうぞご期待ください。
河野正夫
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