【養護教諭のための面接戦略】第15回:いじめ・不登校の早期発見と継続的な支援
- 河野正夫
- 2 日前
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【養護教諭のための面接戦略】
第15回:いじめ・不登校の早期発見と継続的な支援
1.はじめに――現代の学校が直面する最も深刻な課題
いじめと不登校は、現代の学校が直面する最も深刻な課題の一つです。
文部科学省の令和6年度の調査によると、全国の小・中・高等学校及び特別支援学校におけるいじめの認知件数は約77万件、そのうち重大事態の発生件数は約1400件と、いずれも過去最多となりました。
また、小・中学校の不登校児童生徒数は約35万4千人と、こちらも過去最多を更新しています。
これらの数字は、いじめと不登校が、もはや一部の特別な子どもの問題ではなく、どの学校でも、どの学級でも起こりうる普遍的な課題であることを示しています。
養護教諭は、いじめと不登校への対応において、極めて重要な役割を担います。
保健室は、いじめ被害を受けた子どもが心身の不調を訴えて訪れる場であり、不登校の子どもが教室の代わりに居場所とする場でもあります。
保健室で把握される子どもの情報は、いじめの早期発見、不登校の予兆の察知につながる貴重な手がかりとなります。
面接で「いじめや不登校への対応について、どのように考えますか」と問われたとき、関連する法令や国の方針を踏まえた、専門性の高い回答が求められます。
「子どもに寄り添います」という抽象的な答えでは、深刻な課題への理解の不足が露呈してしまいます。
第15回では、いじめと不登校に関わる法令の理解、養護教諭の役割、早期発見と継続的支援の在り方、そして面接での語り方について、詳しく説明します。

2.いじめ防止対策推進法の理解
いじめへの対応を語る上で、いじめ防止対策推進法の理解は不可欠です。
基本を整理します。
★いじめの定義
いじめ防止対策推進法は、平成25年に成立・施行されました。同法第2条において、いじめは、
「児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的または物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているもの」
と定義されています。
この定義で最も重要なのは、受け手である子どもが心身の苦痛を感じたら、その行為はいじめに当たるという点です。
加害者の意図やいじめの深刻さの程度ではなく、被害を受けた児童生徒の主観的な苦痛を基準とする、極めて広い定義です。
「ふざけていただけ」
「相手も笑っていた」
といった加害側の認識は、いじめか否かの判断には関係ありません。
この定義の理解は、面接で問われることもある重要なポイントです。
★組織的対応の原則
いじめ防止対策推進法は、いじめへの組織的対応を求めています。
学校は、いじめの防止等に関する措置を実効的に行うため、複数の教職員、心理・福祉等の専門家その他の関係者により構成される組織(学校いじめ対策組織)を置くことが定められています。
いじめへの対応は、担任一人や養護教諭一人で行うものではなく、この組織を中心とした組織的対応が原則です。
★学校が講ずべき措置
個別のいじめに対して学校が講ずべき措置として、
いじめの事実確認、
いじめを受けた児童生徒とその保護者への支援、
いじめを行った児童生徒への指導とその保護者への助言
が定められています。
また、いじめが犯罪行為として取り扱われるべきものと認めるときは、所轄警察署との連携も求められます。
★重大事態への対処
いじめ防止対策推進法は、いじめのうち深刻なものを「重大事態」と位置づけています。
いじめにより児童等の生命・心身・財産に重大な被害が生じた疑いがあると認めるとき、または、いじめにより児童等が相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている疑いがあると認めるときが、重大事態に当たります。
重大事態が発生した場合、学校は速やかに事実関係を明確にするための調査を行う義務を負います。
これらの法令の枠組みを理解した上で、養護教諭としての対応を語ることが大切です。
3.不登校に関わる法令と方針の理解
不登校への対応を語る上で、関連する法令と国の方針の理解も不可欠です。
★教育機会確保法の理念
不登校児童生徒への支援は、平成28年に成立した「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律」(教育機会確保法)に基づいて進められます。
この法律の重要な点は、児童生徒の休養の必要性を明示したことです。
不登校を問題行動として捉えるのではなく、子どもの状況によっては学校を休むことも必要であるという考え方への転換が示されました。
不登校への対応の基本は、
「学校復帰を唯一の目標とするのではなく、子どもの社会的自立を目指す」
という視点です。
教室に戻ることだけがゴールではなく、子どもがそれぞれの状況に応じて学び、成長し、社会的に自立していくことを支えるという考え方が、現代の不登校支援の基盤です。
★COCOLOプランの推進
文部科学省は、令和5年に「誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策(COCOLOプラン)」を取りまとめました。
教育支援センターやICTを活用した学びの場の整備、スクールカウンセラー・スクールソーシャルワーカーの配置拡充などが掲げられています。
COCOLOプランの中で特に重要なのが、校内教育支援センター(校内サポートルーム)の整備です。
教室には入りづらいけれど学校には来られる子どものための校内の居場所づくりは、保健室の機能とも深く関わります。
★多角的なアセスメントの重視
不登校への対応では、子ども一人ひとりの状況を多角的に把握するアセスメントが重視されています。
チーム学校による丁寧なアセスメント、個々の児童生徒に応じた学習支援、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーなど専門的知見を有する人材の活用が、近年の不登校支援の方向性として示されています。
養護教諭は、健康面・心身面のアセスメントを担う重要な一員です。
4.養護教諭の役割――早期発見
いじめと不登校への対応において、養護教諭が果たす役割は、大きく早期発見と継続的支援の二つに分けられます。
まず早期発見における役割を整理します。
★保健室での観察を通じた早期発見
保健室は、子どもの心身の異変が最も早く現れる場の一つです。
いじめ被害を受けた子どもは、頭痛、腹痛、吐き気、不眠などの身体症状を訴えて保健室を訪れることがあります。
表面的な訴えの背後にあるいじめや人間関係の悩みに気づく観察力が、早期発見の鍵となります。
★頻回来室への着目
特定の時間に繰り返し保健室を訪れる子ども、特定の授業の前に体調不良を訴える子どもなど、来室のパターンには、いじめや不登校の予兆が隠れていることがあります。
来室記録を分析的に捉える視点が、早期発見につながります。
★健康観察を通じた早期発見
日常的な健康観察は、子どもの心身の変化を把握する重要な手段です。
表情の変化、活気のなさ、欠席や遅刻の増加などのサインに気づき、学級担任と情報を共有することが、早期対応の起点となります。
★身体に現れるサインへの着目
いじめによる外傷、自傷行為の跡、虐待の身体所見など、身体に現れるサインを見抜く力は、養護教諭ならではの専門性です。
健康診断時の観察も、こうしたサインを発見する機会となります。
★組織への報告
気づいたことを、速やかに学級担任、生徒指導主事、管理職に報告することが、組織的対応の起点となります。
「気になる」段階での報告が、深刻化を防ぎます。
5.養護教諭の役割――継続的な支援
いじめと不登校への対応では、早期発見に続く継続的な支援が重要です。養護教諭の役割を整理します。
★いじめ被害を受けた子どもの心身のケア
いじめ被害を受けた子どもは、深い心の傷を負っています。
養護教諭は、保健室で安心して過ごせる場を提供し、心身のケアを行います。
スクールカウンセラーや学級担任、保護者と連携しながら、子どもの回復を長期的に支えます。
★保健室登校への対応
教室に入りづらい子どもにとって、保健室は重要な居場所となります。
保健室登校は、ただ受け入れるだけでなく、学級担任やスクールカウンセラー、保護者と連携した支援計画のもとで進めます。
本人の状況に応じた目標を共有し、教室復帰や校内サポートルームの活用、社会的自立に向けた支援を、本人のペースを尊重しながら組み立てます。
★校内教育支援センターとの連携
COCOLOプランで整備が進む校内教育支援センターと、保健室の機能を連携させることが重要です。
保健室と校内サポートルームが、それぞれの役割を持ちながら、不登校の子どもの居場所として機能するよう、組織的に整えます。
★組織的支援への参画
いじめ対策組織、ケース会議、不登校支援の校内体制に、養護教諭は健康面・心身面の専門家として参画します。
子どもの状態のアセスメント、必要な配慮の提案、関係機関へのつなぎなどを担います。
★保護者への支援
いじめ被害を受けた子どもの保護者、不登校の子どもの保護者は、深い不安と苦しみを抱えています。
養護教諭は、保護者の心情に寄り添い、必要な支援につなぐ橋渡し役を担います。
6.面接回答の構成例
面接で「いじめや不登校への対応について、どのように考えますか」と問われた場合、回答時間は1分以内、320字以内が原則です。
推奨する構成は、次の四部構成です。
★第一部・課題の認識(60字程度)
いじめ・不登校が深刻な課題であること、養護教諭が早期発見と継続的支援に重要な役割を担うことを示します。
★第二部・養護教諭ならではの強み
(80字程度) 保健室での観察、心身両面からの気づき、居場所としての保健室など、養護教諭ならではの強みを述べます。
★第三部・具体的な関わりと連携(130字程度)
早期発見、組織的対応への参画、保健室登校への対応、関係機関との連携など、具体的実践を示します。
★第四部・組織人としての決意(50字程度)
組織の一員として、子どもの回復と成長を支える決意で締めくくります。
回答例を示します。
「いじめと不登校は、現代の学校が直面する深刻な課題であり、養護教諭は早期発見と継続的支援に重要な役割を担うと考えています。保健室は子どもの心身の異変が早く現れる場であり、私は身体症状や頻回来室の背景にあるサインに気づくことを大切にします。気づいたことは速やかに学級担任や生徒指導主事と共有し、いじめ対策組織やケース会議に専門家として参画します。保健室登校の子どもには、本人のペースを尊重しながら、関係機関と連携した支援を行います。組織の一員として、子どもの回復と成長を支える養護教諭でありたいと考えています。」
この回答例は253字です。
7.避けるべき語り方
いじめ・不登校への対応を語る際に避けるべき典型例を整理します。
★いじめの定義を誤解するパターン
「明らかな暴力やいやがらせをいじめとして対応します」。
受け手が心身の苦痛を感じたらいじめに当たるという、法の定義への理解が欠けています。
★養護教諭一人で抱え込むパターン
「いじめ被害の子は、私が責任を持って支えます」。
組織的対応が法で求められていることへの理解が見えません。
★不登校を学校復帰のみで捉えるパターン
「不登校の子を、一日も早く教室に戻します」。
社会的自立を目指す現代の不登校支援観、休養の必要性への理解が欠けています。
★保健室登校を無計画に受け入れるパターン
「保健室をいつでも居場所として開放します」。
連携した支援計画のもとで進めるという視点が見えません。
★早期発見の視点を欠くパターン
「問題が起きたら対応します」。
保健室での観察を通じた早期発見という、養護教諭ならではの強みが見えません。
★法令・方針への理解を欠くパターン
いじめ防止対策推進法、教育機会確保法、COCOLOプランなどへの言及がないと、専門性への準備不足を疑われます。
これらの典型例を避け、法令の理解・早期発見の専門性・組織的対応・継続的支援の視点を備えた語りを心がけてください。
8.おわりに
いじめと不登校は、過去最多の数字が示すとおり、現代の学校が直面する最も深刻な課題です。
いじめ防止対策推進法、教育機会確保法、COCOLOプランといった法令や方針を理解した上で、養護教諭としての役割を語ることが、専門性の確かさを示します。
保健室での観察を通じた早期発見、
身体に現れるサインへの気づき、
居場所としての保健室の機能、
組織的対応への参画、
継続的な心身のケア。
これらが、いじめ・不登校への対応における養護教諭の専門性の核心です。
そして、いじめの定義の正確な理解、不登校を社会的自立の視点で捉える姿勢、組織的対応の原則を踏まえることが、現代的な対応観として求められます。
この回は、第9回の心のケア、第10回の生徒指導とも密接につながる内容でした。
子どもの心を守り、成長を支える養護教諭の使命が、これらの回に通底しています。
次回は「第16回:ICTを用いた保健事務の効率化と啓発」を取り上げます。
GIGAスクール構想以降の学校におけるICT活用と、養護教諭の保健事務・健康教育への応用について、詳しく説明します。
河野正夫


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